研究課題
基盤研究(C)
慢性呼吸不全状態では換気不全や肺機能不全により末梢組織は常に低酸素状態に置かれている。酸素はヘモグロビンに結合し運搬されるが、末梢における解離をより多くすれば、組織に供給される酸素量を増やすことができると考えられる。我々は、組織低酸素状態を改善させる方法として酸素親和性は弱いがアロステリック効果の強いPresbyterian型ヘモグロビンの応用が酸素の遊離、供給量の増大に有利ではないかと考えた。β-グロビン遺伝子に変異を有するPresbyterian型ヘモグロビン症は、4量体中心部に配位するβ108AsnがLysに変異することにより、ヘモグロビン中心渦へCl^-を囲い、脱酸素状態で安定化するため酸素解離が著明であり、酸素乖離曲線が右方移動している。共同研究者の白澤らは、このような特性をもつPresbyterian型変異をマウスβグロビン遺伝子に導入したノックインマウスを作製した。我々は白澤と共同でPresbyterian型変異マウスが呼吸生理学的に有利な点を明らかにした(Shirasawa et al,2003)。即ち、mutant miceは、酸素消費量、二酸化炭素排出量、組織酸素量の増大がみられたが換気量は減少していた。これは、mutant Hbが、換気亢進によってではなくHbの酸素解離によって末梢の酸素供給量を増大させたことを示している。更に、慢性的な末梢組織への酸素供給亢進は急性高炭酸ガス暴露、低酸素ガス暴露時の換気亢進の抑制を可能にすることが明らかになった(Izumizaki et al,2003)。このようなPresbyterian型変異マウスの組織呼吸に及ぼす機能獲得効果は、将来の呼吸不全治療や虚血性疾患の治療につながる可能性を示唆する。
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