研究概要 |
本研究はヒト由来の試料を用いるが、病変部にのみ後天的に出現し次世代には受け継がれないSomatic Mutationと同様の、癌組織でのみ異常を来たすDNA Methylationを解析する研究であるが、当大学の倫理委員会へ照らし合わせたところ、倫理委員会の承認が望ましいとのコメントであったので、平成15年11月に当大学の倫理委員会に承認され、同12月より実験に着手した。 現在までにサンプルの準備として、B群試料として保存されていた1997年に当科で切除された大腸癌、胃癌および食道癌の内、新鮮凍結切片が利用可能な31例および正常組織17例と、2004年に手術された大腸癌症例中、遺伝子解析のインフォームドコンセントが得られ、手術前後の糞便および新鮮凍結標本が利用可能な11例の、計155例のDNAを抽出し、バイサルファイト処理を行った。 また遺伝子診断のターゲット遺伝子として、消化器癌で特異的な異常Methylationが報告されている遺伝子を文献的に調べ、候補の遺伝子として、p16,TSP1,hMLH1,H-cad,RARbeta,XAF1,SLIT2,GATA5,TIMP3,RASSF1A,CACNA1G,DLC1,SFRP2,WIF1,HLTF,MGMT,SLC13A5,TSLC1,KIRREL2,HRK,LOX,CDH4,ID4,RASSF4の24遺伝子を既にPrimerの作製・発注を終了した。この内、p16,TSP1,hMLH1,HCAD,RARbeta,XAF1,SLIT2,GATA5,TIMP3,RASSF1A,CACNA1G,DLC1,SFRP2の12遺伝子に関しては、大腸癌例に対して実際にMSPを行い、42例中37例(88.1%)において少なくとも一つのメチル化が検出された。また大腸癌ではSFRP2,HCAD,GATA5,p16,TIMP3の5遺伝子で癌組織で有意にプローモーター領域の異常メチルが認められた。更に、p16およびhMLH1異常メチル化大腸癌では未分化型癌が多く、p16,GATA5,hMLH1異常メチル化大腸癌は右側結腸に多いなどの結果が得られた。今後より多数遺伝子および多数例での更なる検討と、予後調査を合わせて検討している。その上で、診断に有用と考えられる遺伝子の組み合わせを検討し、第二段階のDNAチップの設計を早急に行う予定である。糞便から抽出したDNAのMSP産物において、異常メチル化の検出を電気化学的チップを用いて調べることにより、高感度の遺伝子診断が可能ではないかと考えている。
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