研究概要 |
チミジンホスホリラーゼ(TP)は多くの癌でその発現が上昇することが報告されている酵素である。TPは癌の増殖、浸潤、転移、腫瘍血管新生と深く関わっている。一方、TPはマクロファージにも高く発現していることが確認されており生体の免疫反応に何らかの関わりをもつと考えられた。我々はTPの腫瘍免疫および抗炎症、腫瘍浸潤における機能を解析したいと考えた。本研究では 1)TPタンパクのモチーフ検索を行ったところロイシンジッパーモチーフが確認された。 2)COS細胞にIL-10のプロモーターを含むルシフェラーゼ遺伝子とイTPcDNAをトランスフェクトし、TPたんぱくがIL-10のプロモーター活性に及ぼす影響を調べたが明確な上昇は確認できなかった。 3)ヒト膀胱癌において種々の浸潤促進因子MMP1,2,7,9,14,uPA,VEGFやTPの発現をリアルタイムPCRで測定し、浸潤度との関連を調べたところ、浸潤度に最も相関が高かったのはTPであった。TPの発現と浸潤を担うと考えられているuPA,MMP1,9の発現には相関があった。しかしながら膀胱癌細胞細胞EJ,BTにTPを過剰発現させたEJ/TP,BT/TP細胞はベクターを発現させた細胞に比べMMP9の発現に差が見られなかった。浸潤性の膀胱癌細胞ではTPの影響がみられないと考えられた。 4)TPによってチミジンを分解して生じる2_デオキシーD_リボースを前立腺癌細胞PC-3細胞の培地に添加するとMMP-9の発現の上昇が見られた。 5)TPを過剰発現させたKB細胞をヌードマウスに移植するとベクターコントロールを発現させたKB細胞を移植した場合に比較して転移巣の数が多かった。このマウスに2_デオキシーD_リボースの立体異性体である2_デオキシーL_リボースを持続投与すると転移が顕著に抑制された。
|