研究課題
基盤研究(C)
新規合成レチノイド(acyclic retinoid, ACR)は副作用を惹起することなくヒト肝癌治療後の再発を有意に抑制する。本研究の目的はACRの抗腫瘍作用メカニズムを分子レベルにおいて詳細に解析することである。私達はヒト癌細胞においてACRの細胞周期関連分子の発現に対する影響と核内レセプター転写活性に及ぼす効果を検討した。ACRはヒト肝癌細胞株(HepG2)・食道扁平上皮癌細胞株(HCE7)・大腸癌細胞株(HCT116)の増殖を濃度依存的に抑制した。ACRはHepG2細胞株において短時間(3h)にp21^<CIP1>のmRNAとタンパク発現を誘導した。また、ACRはRARβのmRNAとタンパクの発現及びRARβの転写活性を誘導した。以上の結果よりACRによる癌細胞増殖抑制メカニズムにはRARβとp21^<CIP1>が非常に重要な役割を果たしていることが明らかになった。ACRはヒト頭頚部(YCU-N861,YCU-H891)・食道癌細胞株HCE7おいても肝癌細胞に対する作用と同様にcyclinD1を抑制しp21^<CIP1>を誘導した。ACRはこれらの細胞においてG1 arrestを引き起こしapoptosisを誘導した。またACRはc-Fos及びAP-1プロモーター活性を濃度依存的に抑制し、リン酸化型EGFR(pEGFR),pStat3及びpErk1/2のタンパク発現を抑制した。ACRはHepG2細胞株においてOSI461(sulindac誘導体)との併用により癌細胞増殖抑制に関して相乗効果を示し、そのメカニズムとしてp21^<CIP1>とRARβの誘導が重要であることが明らかになった。以上の結果はACRがヒトの様々なタイプの癌に対する治療薬あるいは予防薬として有効であることを示唆する。ACRとOSI461との併用は肝癌や他の癌の予防や治療の有効なレジメンとなる可能性がある。
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