研究概要 |
乳癌11系、膵臓癌4系を含むヒト癌細胞株におけるEtsファミリー癌遺伝子の発現をRT-PCR法により検索したところ、特にEts-1,Fil-1の発現レベルと癌の浸潤能に関係するuPA(urokinase-type plasminogen Activator)やMMP遺伝子群(matrix metalloproteinases)の発現との間に正の相関が見られた。Ets-1と癌の悪性度については国内外より多くの報告がなされているが、固形癌でのFil-1の機能についてはよく分かっていない。そこで、われわれはEts-1,Fil-1の発現が低く、悪性度が低いヒト乳癌細胞株MCF-7にFil-1の発現ベクターを導入し、Fli-1を高発現しているクローンを樹立し、その生物学的特徴について空ベクター導入クローンと比較した。その結果、Fil-1導入細胞とコントロール細胞との間で、10%および1%血清下での増殖能、細胞飽和密度、コロニー形成能には差が見られなかったが、Fil-1導入細胞ではMMP遺伝子群の中でMMP-1の発現が亢進していた。さらに、血清除去によるアポトーシスの誘導はFil-1導入細胞で有意に抑制されていた。血清除去により.、Fil-1,bcl-2の発現がコントロール細胞でも誘導されることが明らかとなったが、それらの発現レベルはFil-1導入細胞でさらに高かった。このFil-1,bcl-2遺伝子発現の誘導はJNK(c-Jun N-terminal kinase)阻害剤で抑制された。また、Fil-1導入細胞におけるアポトーシス誘導の抑制はUV照射でも見られた。bcl-2遺伝子プロモーターにはEts結合部位があることから、癌細胞で高い値を示すFil-1がbcl-2の発現を亢進し、癌細胞のアポトーシス阻止に働いていると推測された。次に、ヒト乳癌細胞株でしばしば発現の高いEts-1,Ets-2,ER81,E1AF遺伝子の細胞内での機能を調べるために、個々の遺伝子に対するsiRNAを、悪性度が高いMDA-MB-231細胞に導入した。その結果、MDA-MB-231細胞のEts-11の発現を下げるとMMP-1,MMP-3,MMP-9遺伝子の発現が低下し、ケモインベージョンアッセイでの浸潤能が低下した。一方、ER81の発現を下げるとアポトーシス関連遺伝子bad発現が低下した。以上のことから、いくっかのEtsファミリー遺伝子が個別あるいは共通の機能を果たして癌細胞の最終的な悪性化に関与していることが明らかとなった。
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