研究概要 |
抗生剤の開発が進歩してきたにもかかわらず,敗血症ショックによる死亡率は上昇を辿っている.敗血症のメカニズム解析として,臨床病態を反映する動物モデルの開発は重要である.我々は,エンドトキシン(ET)や細菌を直接投与することなくβ-グルカンとインドメタシンの2種の医薬品を投与することで内因性敗血症を誘発するモデルを作製し,様々な角度から解析を進めてきた. 本研究期間で明らかにしたことを以下に示す. 1.肝臓を摘出・薄切後,HE染色を行ったところ,敗血症誘発マウスにおいて非実質細胞の割合が上昇し,病的変化が現れた.また,各臓器への菌の播種を比較したところ,肝臓のみならず,肺,心臓,脾臓など多臓器から細菌が検出された.また,血中サイトカイン産生をビーズ法により網羅的に解析したところ,過剰なTNF-α,MCP-1,IL-6産生が認められた.消化管バリアの破綻によるバクテリアルトランスロケーションが致死に関与することが示唆された. 2.併用投与マウスの腹腔浸出細胞(PEC)培養上清中のNO産生について検討したところ,著しいNO産生上昇が認められた.そこで,NO合成酵素阻害剤であるL-NAMEを併用したところ,致死毒性は増強した.L-NAME併用マウスは,血中並びに多臓器より細菌が検出され,PEC培養上清中のIL-1β,IL-6,TNF-αの過剰産生を認めた.さらに,GOT, GPT値が上昇し肝障害の誘発を認めた.NOは本モデルにおいて保護的な作用を示すことが明らかとなった. 3.ペニシリン系抗生物質を予め経口投与並びに自由飲水より摂取させたところ,通常5.8±1.5日であった平均生存日数は9.1±3.1日と延命を示した.抗生剤の併用により,PEC培養上清中の炎症性サイトカイン産生は低下し,ET感受性の低下も示した.本モデルの致死毒性には腸内細菌が関与しており,原因菌の追究が今後の課題である.
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