研究概要 |
心臓ではアルドース還元酵素(aldose reductase: AR)は主要なtoxic aldehydes代謝酵素である一方,glucoseのアルデヒド体をも基質としてsorbitolに還元することから,解糖系の副路・ポリオール経路の構成酵素でもある.ラットやウサギ摘出潅流心ではAR阻害薬の前処置により心筋の全虚血・再灌流障害が軽減することが報告されている. 申請者らは今回,野生型マウスおよびヒトARを高発現する遺伝子改変マウスを用いてARの心臓全虚血・再灌流障害における役割を解析した.摘出心をラングンドルフ灌流系にて30分間の全虚血施行後再灌流を行い,左心室収縮期圧,左心室拡張未期圧,左心室収縮期圧最大上昇速度,冠動脈流量を測定するとともに,心筋組織障害の指標として灌流液へのcreatine phosphokinase(CPK)の流出量を測定した.虚血・再灌流直後に左心室拡張未期圧は上昇し,左心室仕事量および左心室収縮期圧最大上昇速度が著明に低下するが,全虚血施行直前に3種類の異なるAR阻害薬(1〜10μM)を10分間灌流液に添加するとこれらの変化が有意に抑制され,CPK流出量も減少した。一方,トランスジェニックマウスの心臓におけるARの活性は同腹対照マウスと比較して約2倍に上昇しており,虚血・再灌流後の心機能が有意に増悪していた.AR阻害薬およびsorbitol脱水素酵素阻害薬はともにトランスジエニックマウスの心機能低下とCPK流出を抑制し,再灌流後の心筋ATPも無処置群に比し有意に高値を示していた.以上の解析より心虚血・再灌流障害にARは増悪因子として作用することが明らかとなった.そのメカニズムとしては嫌気的状況下においてARを介するポリオール経路にてNAD^+が消費されると,同じくNAD(を補酵素とするGAPDHを介する反応が相対的に抑制され,解糖系におけるATP産生が低下するためと考えられた.
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