研究概要 |
脊椎動物の防御機構は獲得免疫と自然免疫からなる.前者は脊椎動物特有の系で,病原体認識を免疫グロブリンやT細胞受容体で特異的に行う.一方,後者は昆虫などの下等動物から普遍的に存在する系で,感染初期の生体防御に重要な役割を果している.カセリシジンは自然免疫担当分子であり,皮膚感染モデルを用いて生体防御における重要性を示し(Nature,2001),発現欠如がアトピー性皮膚炎の二次感染の原因として報告した(N Engl J Med,2002).カセリシジンは皮膚創傷モデルにおいてEGFRのco-factorのproteoglycanの発現を介して創傷治癒も促進している.さらにブタカセリシジンPR-39は心筋梗塞モデルにおいて血管新生を誘導すると報告された.マクロファージ内にはカセリシジンが発現しておりLPSの刺激がToll like receptor(TLR)を介してカセリシジンの発現を誘導することが確認されている.近年,肝再生においてKupffer細胞の重要性が指摘されているが,我々は肝再生時にKupffer細胞および炎症性細胞中のカセリシジンが腸管から門脈系に侵入する細菌に対し防御的作用をするだけでなく,直接的または間接的に肝細胞の増生を誘導すると推測した.実際に正常肝組織においてTLR3-8,10 mRNAの発現をRT-PCRで確認した.しかし,免疫組織学的検討ではマウス正常肝組織のKupffer細胞にカセリシジンの発現を認めず,ごく一部の循環している顆粒球に発現しているだけであった.そこで,我々はカセリシジンのin vivoにおける感染防御能および組織修復能を評価を試みた.多くの家畜哺乳類がカセリシジンファミリーを複数発現しているのに対し,マウスはヒトと同様に一種類のカセリシジン遺伝子しか持っていない.我々はマウスの皮膚感染モデルの系を用いることとし,2種類のカセリシジントランスジェニックマウスを作成した.この結果,複数のカセリシジン遺伝子の発現が感染防御および組織修復の促進に寄与することを証明した(PNAS,2005).
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