研究概要 |
過敏性腸症候群(IBS)にセロトニンレセプター拮抗薬(5-HT3,5HT4 receptor拮抗剤)の有効性が報告されて以来、治療薬として臨床に用いられている。これらの作用機序は腸管神経叢の神経終末でのセロトニン抑制作用を介する消化管運動調節と考えられている。我々は、腸上皮細胞株HT-29において水チャネルAQP3の発現がVIPによって制御されることを明らかにした。またHT-29細胞は5-HT2A,5HT-3,5-HT4 receptorが発現しているおり、セロトニンは何らかの作用を及ぼすと考えられる。HT-29細胞にセロトニンを添加し、AQP3 mRNAの発現変化をノーザンブロットで検討したが、AQP3 mRNA発現量はセロトニン添加の濃度増加、時間経過にてもほとんど変化が見られなかった。しかし、体液調節因子である、natriuretic peptides (ANP,BNP)について同様に検討したところ、ANP 100nMあるいはBNP 10nM以上の添加にてAQP3の発現増強がmRNA、蛋白レベルでも確認され、そのシグナル伝達には主にcGMPを介していることが明らかとなった。さらに他の体液保持に関与するアルドステロン、アンギオテンシンII添加にてもAQP3 mRNAが増強することも確認された。次に、過敏性腸症候群とセロトニンレセプター発現の関連については、まず正常部大腸粘膜6例と下痢型IBS患者6例の大腸粘膜生検組織より5-HT3 receptor mRNA発現をライトサイクラーによる定量的PCRにて検討したところ、下痢型IBS患者では優位に5-HT3 receptor発現が減弱していることが明らかとなった。
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