研究概要 |
1)マウス腺胃の上皮細胞は酵素などを用いて間質と分離し3T3 Feeder Layer上で培養したが、7-14日を限度に増殖を停止してしまい継代培養を行うことは不可能であった。ところが、線維芽細胞を採取するために行った組織片遊走法を繰り返すことで、継代可能な上皮細胞(おそらくprogenitor cell)を偶然採取することができた。一方、線維芽細胞は組織片遊走法にて食道、前胃、腺胃、小腸、大腸、より継代可能な細胞を得た。上皮細胞は限界希釈法にてクローニングを行いMSE1(mouse stomach epithelium)と命名。同細胞株は胃に特異的な分化マーカー(MUC5AC,MUC6,pepsinogen,H-K ATPase etc.)の発現を認めなかったが、タイトジャンクション蛋白occludin,zo-1や単層立方上皮に特異的なサイトケラチン14の発現を認めた。 2)MSE1と各消化管の線維芽細胞をコラーゲンゲルに包埋し共培養を行うと、何れにおいてもMSE1は樹枝状構造を呈し各枝は管腔状の腺管様構造を呈した。この現象は線維芽細胞の非存在下では認められず、Montesano Rらにより腎臓上皮細胞株(MDCK)で認められたものと同様の現象であった(1991 Cell 66:697-711)、さらに、各線維芽細胞との共培養系においてMSE1の形質発現の相違を検討したが(MUC5AC,MUC6,pepsinogen,H-K ATPase,MUC2,villin sox2,cdx1,cdx2 etc.)、分化誘導作用に相違は見られなかった。これは培養系で増殖してゆくために線維芽細胞自体の性質が変化し(例えば全てがαSMA陽性となる)それぞれの臓器特性を喪失してしまったためと考えられた。 3)HoxC8、HoxA5は、発生、分化に関わるホメオボックス遺伝子であり、消化管での発現については不明な点が多い。そこで胃、小腸、大腸粘膜組織からtotal RNAを抽出し、RT-PCR法によりHoxC8、HoxA5 mRNAの発現を検索した。その結果小腸・大腸では発現が確認されたが、胃では発現が確認されなかった。さらに腺管分離法を用いて、回腸粘膜から上皮を取り出し、上皮とそれを除いた間質から別々にtotal RNAを抽出し、RT-PCR法によりHoxC8 mRNAの発現を検索したところ、HoxC8の発現は間質でのみ確認されHoxC8は腸の形質発現に重要であると考えられた。
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