研究概要 |
消化管粘膜防御能調節機構の解明を目指して、神経栄養因子の消化管における分布と機能を調べ以下のような結果を得た。 1.神経栄養因子及びその受容体の消化管における分布 神経栄養因子であるNGF, BDNF, NT-3のmRNAの発現は、成熟ラット及びマウスの胃・小腸・大腸で確認された。一方、その受容体は、mRNAレベルでTrk Cが検出されるのみであり、免疫組織化学的検討では受容体は確認されなかった。 2.消化管粘膜上皮内の神経分布 週齢数の異なるラット消化管粘膜の神経分布の比較で、CGRP含有神経線維の割合が加齢により変化することを見出した。また、7週齢ラット胃組織ではCGRP受容体を介した特徴的なムチン生合成活性亢進が確認されたのに対して、52週齢ではそのような作用は示されなかった。 3.実験潰瘍治癒過程における検討 塩酸アスピリン投与による潰瘍モデルの検討に、我々が開発した抗ムチンモノクローナル抗体(RGM21, PGM34, RGM26)を使用することにより、より鮮明なる表層粘膜の損傷を評価できることが示された。ラット胃粘膜に酢酸を直接注入し作成した慢性潰瘍モデルでは、その治癒過程で一過性に特徴的な粘液細胞の出現が確認された。 4.ムチン代謝へ及ぼす影響 成熟ラットの胃粘膜組織を用いて、培地内に各種神経栄養因子(NGF, BDNF, NT-3, EGF, HGF)を添加したときのムチン生合成活性を比較したところ、EGF, HGFでは亢進作用が確認されたが、NGF, BDNF, NT-3では明らかな変化が認められなかった。 以上の結果から、消化管粘膜の恒常性を維持する上で神経の果たす役割は重要であるが、脳において作用が解明されているNGF, BDNF, NT-3が粘液細胞へ直接的に作用する可能性は少ないことが明らかとなった。
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