研究概要 |
本研究の目的は,動脈硬化の危険因子の一つである高血圧が血管壁に与える物理的刺激に着目し,機械的伸展刺激による単球からマクロファージへの分化誘導因子を解析することである。血管細胞のなかでも単球の役割は特に重要であり,血液中から血管壁に侵入した単球がマクロファージへと分化(活性化)する過程は動脈硬化の病変形成に欠かせない。単球からマクロファージへの分化誘導を制御する転写因子は,動脈硬化に代表される血管疾患の治療や予防の標的となる可能性が高く,本研究の成果は新たな血管保護療法を開発する基盤となる。 機械的伸展刺激が培養マクロファージの活性化を誘導することを確認した平成15年度の成果を受けて,平成16年度は,健康な地域住民において,動脈硬化と血圧との間,マクロファージ活性化との間の関連性について検討した。調査対象者は,G県Y町の住民で,2003年8月から2004年1月までの期間に開催した健康相談に参加した118人(男性29人,女性88人,年齢54.2±12.7歳)である。健康相談のなかで,収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP),動脈硬化の非侵襲的マーカーとして脈波伝播速度(PWV)をVasera-1000(フクダ電子)を用いて測定した。希望者には静脈採血を行い,総コレステロール(T-CHO),130マクロファージ活性化マーカーとしてインターロイキン-6(IL-6),高感度CRP(hs-CRP),血清アミロイドA蛋白(SAA)の血中濃度を酵素抗体法で測定した。全参加者の測定項目の平均値は,SBP 130.6±13.3mmHg, DBP 81.1±12.1mmHg, PWV 13.2±2.4m/sec, T-CHO 201.8±32.5mg/dL, IL-6 1.25±0.89pg/mL, hs-CRP 0.74±1.36mg/L, SAA 5.48±11.0μg/mLであった。全参加者のうち,高血圧(≧140/90mmHg)は33人(28%),高コレステロール血症は37人(31%)にみられた。PWVと年齢(r=0.5999,p<0.001),SBP(r=0.7454,p<0.001),DBP(r=0.6166,p<0.001)の間には有意の正相関を認めた。さらに,PWVとhs-CRP(r=0.2521,p<0.01),IL-6(r=0.469,p<0.001),SAA(r=0.2205,p<0.05)の間にも有意の正相関を認めた。以上から,培養細胞の実験で確認された伸展刺激によるマクロファージ活性化は,地域住民の生体内においても血圧上昇によってもたらされ,動脈硬化を潜在的に進行させている可能性が示唆された。
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