研究概要 |
心不全や心房細動ではイオンチャネルのリモデリングが起こる。このリモデリングがミトコンドリアATP感受性K^+(mitoK_<ATP>)チャネルにも起こるか否かをBio 14.6心不全ハムスターを用いて検討した。コラゲナーゼ処理により単離したBio 14.6ハムスター心室筋細胞のフラボプロテイン自家蛍光を蛍光顕微鏡にて測定し(励起波長480nm,測光波長520nm),mitoK_<ATP>チャネル活性化の指標とした。Bio 14.6ハムスター心室筋細胞にmitoK_<ATP>チャネル開口薬であるジアゾキシド(100μM)を添加すると,フラボプロテイン自家蛍光は,約15分間の無反応期間(latency)のあと酸化反応による増強が認められた。一方,対照群として用いたF1βハムスターの心室筋細胞では,ジアゾキシドを添加すると,数分間のlatencyのあとフラボプロテイン酸化反応が生じた。Latencyは,Bio 14.6では15.1±0.7分,F1βでは8.0±1.2分であり,心不全心筋細胞で有意に延長していた。しかしながら,フラボプロテイン酸化反応はBio 14.6では最大蛍光の48.1±5.7%,F1βでは45.1±5.6%までそれぞれ増加し,両者に差はなかった。この結果から,mitoK_<ATP>チャネルの密度は心不全心筋細胞では減少していないと推察される。つぎに,フラボプロテイン酸化反応におけるlatencyの延長が,protein kinase C (PKC)の活性化が低下しているために起こったのではないかと考え,Bio 14.6ハムスター心室筋細胞にブラジキニン(1μM)を作用させてPKCを活性化した状態でジアゾキシドを添加した。するとlatencyが8.4±0.7分へと有意に短縮し,フラボプロテイン酸化反応も63.7±3.6%へと有意に増加した。したがって,Bio 14.6ハムスター心室筋細胞では,PKCによる細胞内情報伝達系に異常があり,PKCを介するmitoK_<ATP>チャネルの調節機構に変調を来たしていることが示唆された。
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