研究概要 |
血流依存性血管拡張反応(flow-mediated dilation [FMD])に伴う脈派伝搬速度の変化を利用した血管内皮機能の評価法を開発した。FMDは血管内皮機能の非侵襲的定量的指標として注目されているが,従来の血管超音波エコー画像による評価法は,血管径の測定法に伴うアーチファクトと血管径の生理的変動の影響から臨床応用に限界がある。一方,FMDは,血管径の増加,血管壁厚および弾性率の低下を介して,脈派伝搬速度を低下させる。そこで,一側上肢の5分間の駆血後の反応性充血によるFMDに伴う脈波伝搬速度の変化を,対側上肢の脈波伝搬速度を対照とすることで血圧,心拍数などの全身性因子の影響を除去して高精度に測定する方法を考案し,小型で搬送可能な血管内皮機能評価システムの作成を試みた。健常者,高血圧患者,冠動脈疾患患者,計120例を対象に血管内皮機能検査を施行した結果,本法は,FMDによる脈派伝搬時間の延長反応を連続曲線として検出し,駆血解除約1分後に見られるピークの高さは,加齢および高血圧,冠動脈疾患で減少した。この反応曲線は,血管超音波エコー法で測定した血管径の増加反応と類似した。脈派伝搬時間の延長反応を示す健常者を対象に,硝酸薬の舌下投与を行うと,両側上肢の脈派伝搬時間が延長したが,その状態で一側に反応性充血を起こしても,脈派伝搬時間の延長反応は見られなかった。これらの結果から本法は臨床応用が可能な血管内皮機能検査法として十分な可能性をもっと考え、血管内皮機能検査装置として特許出願した。本法の実用化に向けて、歪みセンサーの形状の工夫、マイクロカフによるプレチスモセンサーなどの脈波センサーを試作するとともに、脈波伝搬時間を測定するための信号処理アルゴリズム(Pulse Frequency Demodulation)を開発したが、装着の容易性と測定される脈波の安定性を両立するためにはさらにハードウェアおよびソフトウェアの検討が必要である。
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