研究概要 |
本研究では,長期CAPD療法による腹膜機能低下(主に限外濾過障害)に,活性酸素とNOの相互関係が関与するとの仮説をたて検証した。 腹膜障害時のNO産生異常 腹膜硬化が進行すると,eNOSを発現した血管が増加し,障害部位に存在する浸潤細胞にiNOS発現を認めた。しかし,CAPD排液中のNOx量は,腹膜機能(障害程度)と相関を認めなかった。クロルヘキシジン誘発腹膜障害ラットにおいても,NOS発現の増加を認めた。しかし,リアルタイムでNO量を測定すると増加は認めなかった。このモデルラットにおいて,ニトロチロシンの蓄積が確認された。 高ブドウ糖濃度下で培養した中皮細胞は,活性酸素の産生が増加する。この条件下にNOの補酵素であるBH4添加により,活性酸素産生の抑制を認めた。腹膜障害が形成される過程に,活性酸素とNOの相互作用の関与を明らかにした。 鉄代謝異常と酸化ストレス 鉄は毒性の強いHydroxyl radical生成反応の触媒として作用する。この作用はトランスフェリンやフェリチンとの結合により回避されている。鉄は腹膜障害度と相関が無く,腹膜の血管と,細胞浸潤の見られる部位に沈着を認めた。血管内皮にはフェリチンとHO-1の染色が観察された。同様に腹膜障害度に一致して酸化ストレスマーカーである4-HNE修飾蛋白と80HdGの染色も血管壁で観察された。ラット腹膜炎モデルにおいても,炎症細胞浸潤部位に鉄の存在を認めた。低pHでは遊離鉄が増加することが知られている。長期間の酸性透析液使用により細胞内の遊離鉄が増加し,炎症の持続により局所での鉄代謝異常を惹起し活性酸素を生成し,腹膜や腹膜血管における酸化ストレスの亢進,動脈硬化促進機序に関与すると推測される。
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