研究概要 |
酸化ストレスの糸球体障害に及ぼす影響を明らかにするとともに,酸化ストレス抑制を介した糸球体硬化予防法の開発を目指して種々検討を行った結果,以下のような成績が得られた. (1)培養ラットメサンギウム細胞において,ミトコンドリア内の酸化的リン酸化に関わるNADPH oxidaseのmRNA発現に対するインターフェロンγの影響を検討し,これがSTAT pathwayの制御を介して作用してことを見出した. (2)高食塩食で飼育したDahl salt-sensitive ratにおいて,superoxide dismutase類似物質tempolやアンジオテンシンIIのAT1受容体拮抗薬は血圧上昇,尿蛋白排泄増加,腎組織変化を有意に抑制し,これらの作用に酸化ストレス抑制効果が関与している可能性が示された. (3)cAMPやcGMPの代謝酵素であるphosphodiesterase (PDE)10Aの腎内分布を正常ラットで検討し,糸球体上皮細胞に特異的な局在が認められることを明らかにしたが,これら血管作動物質は糸球体濾過量などの変化を介して糸球体硬化の進展に関与している可能性がある. (4)血液透析患者では酸化ストレスのマーカーであるisoprostaneが透析後に有意に増加することから,透析操作そのものにより慢性的に酸化ストレスに晒されており,このことが透析患者の動脈硬化の進展に関与していると思われた.また,透析患者にみられた酸化ストレスの負荷はビタミンE固定透析膜の使用やビタミンEの経口投与により軽減された. 以上の成績を踏まえ,今後は酸化ストレスがPDE10A活性に及ぼす影響を検討するとともに,種の腎障害モデルでの糸球体内PDE10Aの発現量を検討し,cAMPやcGMPの代謝制御を介した糸球体硬化予防法の可能性について探求する予定である.
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