研究概要 |
パーキンソン病のモデルサルと、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる遺伝子導入技術を応用して、線条体に特有の高次脳機能を明らかにすることを目標に研究を行った。行動学習過程における大脳基底核の機能を検討するために、1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahyhydropyridine(MPTP)の慢性投与によるパーキンソン病モデルサルを作製し、認知能力の評価実験を行った。カニクイザル(Macaca fascicularis)7頭を使用し、4頭にMPTPを投与し、3頭は健常対照とした。ボタンまたはタッチパネル付きディスプレイと接続したコンピュータ制御の自動実験装置を作製し、視覚的見本合わせ課題および概念的セットシフト課題を行った。一連の実験の結果から、MPTPサルにおいても一度形成した抽象的な学習セットを維持することが可能であることが示唆された。また、パーキンソン病患者と同様の抽象的なセットシフトの障害が認められた。線条体におけるドパミン合成能の回復をはかるために、チロシン水酸化酵素tyrosine hydroxylase(TH)、芳香族アミノ酸脱炭酸酵素aromatic L-amino acid decarboxylase(AADC)、GTP cyclohydrolase I(GCH)の各遺伝子を発現するAAVベクターを作製し、MPTPサルの被殻に注入した。その結果、遺伝子導入側の被殻でPET計測によりドパミン合成の増加が観察された。被殻以外の大脳皮質では遺伝子導入後にもドパミン系の変化は認められなかった。本研究においては、抽象的な学習セットのシフトが線条体のドパミンの欠落症状であることをMPTPモデルサルにいて明らかにするとともに、このモデル系が今後の基底核機能の研究に有用であることを示した。
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