研究概要 |
近年、脳虚血におけるDNA修復酵素であるPARP(Poly(ADP-ribose)polymerase)の役割が注目を浴びている。PARPは、NO等のラジカル分子により障害を受けて生じたDNAのニック(切れ目)を認識・結合することで活性化され、この異常な活性化は、細胞内のnicotinamide adenine dinucleotide(NAD)を消費し枯渇させ、その欠乏がエネルギー不全を引き起こし、細胞内の酸化的環境を惹起し、最終的に細胞死に導く(Eliasson MJL et al, Nature Med 3:1089-1095,1997)と考えられるが、今回の研究ではPARPのapoptosis誘導作用の観点から局所脳虚血にアプローチし、選択的PARP阻害薬による不完全虚血部位であるpenumbraにおけるapoptosis抑制および神経保護作用のメカニズムをin vivoにて解明することを目的とした。ラット一過性局所脳虚血モデルを用い以下の実験を行った。雄性Sprague-Dawley Rat(体重200-250g)を用い、1.5%ハロセン麻酔下にシリコンを先端に付着した4-0外科用ナイロン糸を左総頚動脈から内頚動脈を経て中大脳動脈起始部まで挿入することによって脳虚血(Nito C et al, Brain Res 1008:179-185,2004)を導入し、虚血負荷を均一化するため虚血中の直腸温および頭蓋温度は37.0±0.5℃に維持した。実験動物は、I : Vehicle群(対照群、n=10)、II : Low dose PARP群(n=10)、III : High dose PARP群(n=10)、IV:脳保護薬(edaravone)群(n=10)の4群に分類した。IおよびIII群は常温群で、体温コントロールは虚血開始時より導入し、虚血中脳温および直腸温を37℃に保った。2時間の脳虚血後、ナイロン糸を抜去し再開通を行った。再開通24時間後断頭し、直ちに脳を摘出・凍結し、脳梗塞体積および脳浮腫体積を算出した。PARP投与群ではLow dose PARP群(II群)、High dose PARP群(III群)とも対照群(I群)に比し皮質、線条体でdose-dependentに脳梗塞体積の有意な縮小を認めた(p<0.05)。さらにその縮小効果は脳保護薬(edaravone)群(IV群)と同等以上であった。脳浮腫体積の検討でも、同様にPARP投与群(II, III群)群は皮質、線条体において有意な脳浮腫縮小効果を認めた(p<0.05)。今後のさらなる検討により、選択的PARP阻害薬は脳梗塞急性期の新規脳保護薬として臨床応用の可能性が示唆された。
|