研究概要 |
βセクレターゼBACE1はアミロイドβタンパク(Aβ)の生成に関わる膜結合型プロテアーゼであり,アルツハイマー病の治療薬開発の標的として重要である。しかし,生体におけるBACE1活性の制御機構は不明である。我々はこの点を明らかにするため,BACE1と相互作用するタンパクを同定し,それらがBACE1機能に及ぼす影響を調べた。BACE1の細胞内外の動態についても解析した。 まず,C末にタグを付加したBACE1を安定発現する神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を樹立した。その細胞より抽出したタンパクを,ショ糖密度勾配遠心、免疫沈降法により分離し,質量分析により解析した。その結果,複数の候補タンパクが得られ,膜タンパクNogo-B(Reticulon4B)とBACE1との関連性が強く示唆された。 遺伝子導入細胞を用いる免疫共沈実験によりBACE1とNogo-Bあるいはその類縁体Reticulon3(RTN3)の間の結合を確認した。Nogo-B, RTN3のAβ生成に及ぼす影響について変異型アミロイド前駆体タンパク(APP)を発現するHEK293細胞を用いて検討した結果,これらのタンパクの発現により,Aβ40,Aβ42分泌が有意に減少することが判明した。しかし,APPのC末断片を発現する細胞からのAβ分泌には影響しなかった。 BACE1発現細胞の培養上清中には,細胞外切断により生じる可溶性BACE1に加えて,全長BACE1が存在することを見出した。この全長BACE1は可溶性BACE1と同時に放出されること,可溶性BACE1の生成を阻害すると増加することなどを示した。 以上,新たなBACE1の制御因子を同定し,全長BACE1の細胞外放出という新たな現象を発見することができた。
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