研究概要 |
本研究の最終目的は,「インスリン刺激伝達系における筋型カベオリンの役割の証明と糖尿病治療への応用」である.研究代表者らは,カベオリンが筋細胞においてインスリン受容体と結合しており,インスリン受容体基質のチロシンリン酸化促進を介して,インスリン刺激伝達系の活性因子として働くことを蛋白および細胞レベルでは,すでに報告していた(J Biol Chem 273:1998). 本研究においては,筋型カベオリンの遺伝子ノックアウトマウスが,骨格筋でのインスリン刺激伝達系におけるIRS-1のチロシンリン酸化障害から,伝達系下流のPI3K活性低下やAktリン酸化低下,筋細胞への糖取込み障害をおこし,耐糖能異常および脂質代謝異常をひきおこすこと,骨格筋へのカベオリン遺伝子導入は上記の病態を改善させることを見いだし,筋型カベオリンのインスリン刺激伝達系活性化作用を個体で証明した.さらにストレプトゾトシンの少量投与によって,膵臓β細胞におけるインスリン分泌を抑えると,野生型マウスと比較して遺伝子ノックアウトマウスでは,糖負荷後に著明な高血糖をきたすことを示した(Proc Natl Acad Sci 101:2004).骨格筋が運動時に少量のインスリン刺激によって速やかに糖を取り込むためには,インスリン受容体と筋型カベオリンの結合構造が重要であること,インスリン抵抗性の存在にインスリン分泌不全が加わると糖尿病が顕性化することが示唆された. さらに本研究では,筋型カベオリンを耐糖能異常の治療に応用することを検討した.アデノウイルスベクターに組み込んだ筋型カベオリン遺伝子を,本来当遺伝子が発現していないヒト肝細胞に導入すると,IRS-1のチロシンリン酸化に対するインスリン感受性は約10倍に増大した.インスリン抵抗性を有する高脂肪食マウスの肝臓にカベオリン遺伝子を導入すると,細胞実験と同様に肝臓でのインスリン感受性は増大し,刺激伝達系は活性化,グリコーゲン合成能も増大し,血糖値は改善した.これらの結果は、糖尿病に対するカベオリン遺伝子治療の可能性を示唆するものである.
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