研究概要 |
これまで膵ラ氏島における各種リポ蛋白の摂取経路を検討してきた。正常ラット膵ラ氏島を用いて免疫染色を行った。抗インスリン抗体陽性細胞では低比重リポ蛋白受容体(LDL-R)とスカベンジャー受容体であるSRB1およびCD36に対する抗体でも染色された。したがって、ラット膵β細胞にはnative LDL(nLDL)に対するLDL-Rとスカベンジャー受容体であるSRB1、CD36のいずれも存在することが認められた。次に、それぞれの受容体のmRNAが膵ラ氏島に発現することを確認するため、ラット肝・腎・膵ラ氏島およびハムスター膵β細胞由来のHIT-T15細胞からtotal RNAを抽出した。ラット肝ではいずれの受容体のmRNAも発現していた。ラット腎ではLDL-R・SRB1のmRNAは認められたもののCD36-mRNAの発現は認められず、これまでの報告と同様であった。一方、ラット膵から分離したラ氏島では肝と同様にLDL-R、SRB1,CD36のいずれのmRNAも発現していることが認められた。以上のように膵ラ氏島ではそれぞれの受容体を介してnLDL、アセチルLDL(AcLDL)、酸化LDL(oxLDL)が摂取される可能性が示された。そこで、これを確認するため1,1'-dioctadecyl-3,3'-tetramethylindo carbocyanine perchlorate(DiI)で標識した各種リポ蛋白(DiI-nLDL、DiI-AcLDL、DiI-oxLDL)をHIT-T15細胞の培地内に添加すると、いずれのリポ蛋白も摂取されていることが認められた。したがってこれらのリポ蛋白はそれぞれの受容体を介して細胞内に摂取されていることが示唆された。そこで、HIT-T15細胞のインスリン分泌能に対するoxLDLの影響を検討するため、培地内にoxLDL(蛋白量25,50μg/ml)を添加して24、48時間の培養を行った。その結果、細胞障害性(MTTアッセイ)は認められないものの、ブドウ糖(100、300,500mg/dl)に対するインスリン分泌が有意に低下していた。また、インスリン遺伝子の発現も有意に抑制され、また、細胞内インスリン含量が有意に低下していた。このような変化はnLDL、AcLDLの培地内添加では認められなかった.したがって、これらの変化はoxLDLに特有な変化であることが示唆された。これらの成績をまとめBiochim Biophys A- Mol Cell Biol L(1687:173-180,2005)に報告した。
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