研究概要 |
先天性甲状腺機能低下症(CH)ラットを作成し対照群とともに1年間飼育した。これらラットの血清TSH値はCHラット群では2.82±0.75μIU/lであり、対照群(3.3±0.60μIU/l)と差は認めなかった。CH群の遊離サイロキシ(FT4)は1.84±0.07μg/dl、対照群1.64±0.07μg/dlで差はなく、甲状腺機能は正常化していた。甲状腺組織のPAS染色でCH群、対照群ともに甲状腺濾胞は大小様々でコロイドの染色程度にも濃淡差はあったが有意差はなかった。臨床的に生後1ヶ月から合成サイロキシン(LT4,チラージンS)を投与したボーダーラインCH患者13症例(ろ紙血TSHは20.75±21.32μIU/l)の生後18.8±14.4月齢時(LT4中止後18.8±14.4月)の血清TSHは2.99±1.66μIU/l、FT4は2.34±2.97μg/dlと正常であった。また成長発達も正常であった。この結果は生後1ヶ月からボーダーライン甲状腺機能低下症新生児にLT4を長期間にわたって投与しても甲状腺ホルモン分泌能は正常に保たれることを示唆した。この他の成果として甲状腺機能低下患者に低ナトリウム血症がみられても、甲状腺機能低下によるものではなく、これ以外の原因を求めるべきとの成績を得た(Acta Paediatr,2004)。さらに軽症例を含め小学生以上になった109人の社会的地位はむしろ優れた集団を形成しているとの調査結果を得た。またCH患者の誕生は2月に最も多く5月に最も少ないことを明らかにし甲状腺を阻害する環境ダイオキシンやPCB濃度の季節変動も胎児甲状腺を阻害する因子として関与している可能性を発表した(J Paediatr Child Health,2005))。真性先天性甲状腺機能低下症患者対してはできるだけ早期により大量のLT4を投与することが知能発達によい影響を及ぼすとの結論を得た(Clinical Pediatrics,2006印刷中)。これらの研究成績に基づき、ボーダーライン先天性甲状腺機能低下症乳児に対しては生後1ヶ月以内から合成サイロキシンを投与しても、その後の甲状腺ホルモン分泌能を阻害することは全く無く、むしろ成長発達を正常に保つためには不可欠との結論を得た。またこの成果を臨床系雑誌に発表した(小児科,2005)。
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