研究概要 |
1 早期産児臍帯血の血管内皮前駆細胞の生物学的特性 平成15年度と16年度の研究で、早期産、正期産臍帯血の血管内皮前駆細胞(EPC)の割合を、表面抗原を指標に検討し、EPCと考えられるCD133(+)VEGFR2(+)細胞およびCD34(+)VEGFR2(+)細胞は満期産群(n27)に比較して早期産群(n27)の臍帯血に多く含まれることを示した(p<0.05)。また、EPCを反映すると考えられるattached cellの割合を培養系で行った検討でも、早期産群は平均165±105個/cm^2のattached cellがみられたのに対し、満期産群では104±80個/cm^2と早期産群の臍帯血にEPCが多く含まれると考えられた(p<0.05)。このため平成17年度には、EPCの骨髄から末梢血中への動員に関与する因子と考えられるVEGFに加え、PIGF、KITリガンドのSCF、CXCR4リガンドのSDF-1αの測定を行った。VEGF濃度は早期産群(n50)が307±366pg/ml、満期産群(n22)が20±21pg/mlと有意に早期産群で高値を認めた。同様にCD117/c-kitのリガンドであるSCFの値は、早期産群(n=21,1141±314pg/mL)が満期産群(n=26,905±296pg/mL)に比較して有意に高い値を示した(P<0.01)。CXCR4(CXC chemokine receptor 4)のリガンドであるSDF-1αの値も早期産群(n=21,693±355pg/mL)が満期産群(n=26,513±194pg/mL)に比較して有意に高い値を示した(P<0.01)が、VEGFR-1のリガンドであるPIGFの値は両群間に有意な差を認めなかったこれらのことは、早期産児臍帯血中のVEGFに加えて、SCFやSDF-1αが高いこともEPCが早期産児臍帯血に多く存在する原因になっている可能性が示唆された。2 臍帯血中のリンパ管内皮前駆細胞の存在 VEGFR3はリガンドのVEGF-Cとともにリンパ管新生に関与すると考えられている。このため平成15、16年度に前駆細胞が含まれている可能性の高いCD34、VEGFR3陽性細胞分画の割合を検討し、CD34陽性細胞分画中のVEGFR3陽性細胞の割合は、早期産群(n13)が57±20%、満期産群(n6)が39±10%で早期産群に多く含まれていることを明らかにした。このため平成17年度は臍帯血中のVEGF-Cの測定を行った。VEGF-Cは、早期産群(n=58,41.5±28.0pg/mL)が満期産群(n=28,26.5±5.8pg/mL)に対して有意に高値であった(P=0.017)。現時点では、CD34^+VEGFR-3^+細胞が、未分化な血管内皮細胞か、推定されているリンパ管内皮前駆細胞なのか結論付けることは困難である。しかし、本研究で早期産児臍帯血にはVEGFR-3とVEGFR-2のリガンドであるVEGF-Cの値が高いことが示され、早期産児臍帯血中のVEGFR-3陽性細胞がリンパ管内皮前駆細胞かEPC細胞に帰属するかの結論はでていないが、これらの細胞は成熟児臍帯血と比較するとVEGF-C/VEGFR-3およびVEGF-C/VEGFR-2のシグナルを通して高い増殖能を有することが推測され、今後の血管新生療法の標的細胞として注目されると考えられた。
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