研究概要 |
TOB(Transducer of Erb)はEGF受容体のErbBファミリーの一つであるErbB2に結合する物質として発見され、現在までに6個の構造の似た分子(TOB, TOB2,Btg1,Btg2,Btg3,Pc3b)が発見され、TOBファミリーとして知られている。TOBの特徴として、静止期細胞では活性化状態にあり、細胞周期によりその発現が変動し、EGF受容体が活性化されるとTOBの活性化状態が変動し、TOBの強制発現はサイクリンDの減少を引き起こす。本研究ではEGFファミリーを中心とした表皮角化細胞のautocrineおよびcross-induction機構にTOBがいかに関与しているかを検討するために以下の実験を行った。ヒト表皮角化細胞がTOBを発現しているかについてヒト表皮角化細胞からRNAを抽出し、特異的プライマーを用いてRT-PCRを施行したところ、ヒト表皮角化細胞にはTOB分子が存在していることを確認した。さらにEGFの投与により表皮角化細胞内のTOB遺伝子の発現が変動するかについて検討を加えたところ、EGF刺激によりTOB mRNAは濃度依存性に増加した。このことより、ヒト表皮角化細胞においてTOBがEGF刺激により誘導されることはnegative-feedbackの可能性があることが示唆された。さらに、EGF依存性細胞増殖におけるTOBの関与を検討する目的で、TOBアデノウィルスベクターを作製した。作製したアデノウィルスベクターはAx-TOB、Ax-TOB 3SA(常時活性型)、Ax-TOB 3SE(ドミナント・ネガティブタイプ)であり、このアデノウィルスベクターを角化細胞に感染させ、経時的に細胞、RNA,蛋白を回収し、細胞周期、分化マーカーについて検討した。常時活性型のTOBは細胞周期を停止させ、分化マーカーを誘導した。逆に、ドミナント・ネガティブタイプのTOBは細胞周期においてS期の細胞を増加させ、分化マーカーの発現を抑制した。TOBノックアウトマウスを用いたEGF依存性細胞増殖におけるTOBの関与を検討する目的で、TOBノックアウトマウス新生児表皮を剥離し、無血清培養法にて角化細胞の培養を行った。本研究の成果として、TOBは角化細胞における重要な増殖抑制因子であることが明らかとなった。
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