研究概要 |
気分障害の感受性遺伝子同定研究を行うために、動物モデルもうつ感受性遺伝子同定のために援用することが有用と考える。齧歯類における強制水泳テストおよび尾懸垂テストでの無動時間は、抗うつ薬で比較的特異的に減少させることができるため抗うつ薬スクリーニングのスタンダードになっているが、無動という行動自体もストレス下における「絶望」と考えられている。無動時間には系統差がみられ、無動時間の長いマウスほどストレス下で絶望しやすく、ヒトにあてはめるとうつになりやすいと考えられる。このような推論に立脚して、我々は強制水泳テストと尾懸垂テストでの無動時間を規定している遺伝子座位をQTL(quantitative trait loci)という方法を用いて明らかにした(Genome Research 12:357-366,2002)。強制水泳テストと尾懸垂テストに共通する無動時間を規定する遺伝子座として11番が見いだされたので、各染色体領域からマウスゲノムプロジェクトの成果をもとにin silicoで候補遺伝子を探した結果、GABA-A受容体サブタイプα1,α6,β2,γ2が候補に入っていた。マウス染色体11番QTLはヒトでは染色体5番長腕の先端部分(5q32-35)に相当し、その領域はこれまで気分障害の連鎖が報告されている。これらのGABA-Aサブユニットα1,α6,γ2の発現の差をRT-PCR法を用いて両系統で見るとα1 geneがC57BL/6マウスにおいてC3H/Heと比較して有意に減少していた。そこで、この遺伝子α1,α6,γ2の多型について気分障害の患者群とコントロール群の比較、ケースコントロール研究を行った。その結果、α1,α6geneが女性の患者群で有意な差があり、病気との関連が強く示唆された。以上の結果からGABA-Aサブユニットα1,α6が気分障害の候補遺伝子の一つと考えられる。
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