研究概要 |
(方法)ヒト膵癌細胞培養株であるAsPc-1に対してIAB-1を投与し,一定時間の後に生細胞の割合を測定し,腫瘍増殖抑制効果につき検討した.またヌードマウスの肝臓にAsPc-1を移植,あるいは門脈内投与して肝転移モデルを作成し,IAB-1投与による,血行性転移抑制効果について検討した.また成犬を用いて膵頭十二指腸切除術(PD)を施行する際に,膵頭部から十二指腸下降脚,胃,および膵体尾部方向への動静脈経路をクランプした上で,胃十二指腸動脈(GDA)より色素を注入し,上腸管膜動脈(SMA)周囲のリンパ管へ色素が流れるかどうかにつき検討した. (結果)in vitroにおいて,IAB-1を投与されたAsPc-1では,24時間後の生細胞数がコントロール群の5分の1程度まで減少しており,IAB-1投与による腫瘍増殖抑制効果が認められた.この時腫瘍細胞内,および培養液中には,コントロールに比較して高濃度のIFNβが検出された.この培養上清を別のAsPc-1細胞に投与することにより同様の抗腫瘍効果を認めたことから,IAB-1投与により,遺伝子を取り込んだ癌細胞だけでなく近傍の細胞にも分泌されたIFNβを介して抗腫瘍効果を発揮することが示された.またヌードマウスを用いた肝転移モデルにIAB-1を投与することにより,腫瘍塊に対してある程度の抗腫瘍効果を認めた.この時,それぞれのヌードマウスには食欲低下や体重減少などの副作用は認められなかった.またPDを施行する際にGDAより色素を注入することにより,SMA周囲のリンパ管が染色された. (結語)IAB-1は膵癌に対する遺伝子治療製剤として,局所浸潤に対し有効であることが示唆された.また肝転移に対しても抗腫瘍効果を発揮すると思われた.またPD術中にGDAより製剤を動注することにより,術後リンパ管を介したリンパ節転移を抑制できる可能性が示唆された.
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