研究概要 |
心拍動下冠動脈バイパス時の局所心筋虚血の回避手段としての冠灌流法は種々存在する。しかしながら、冠灌流量(以下CF)の明確な指標はない。われわれは当研究費で、局所心筋の収縮能の指標として、前後負荷の影響を受けない局所心筋張カ-局所面積関係を用い、至適CFの検討を行なった。実験用ブタ(LWD)7匹(51.8±10.lkg)を用いた。左室内圧測定用にカテ先マノメーターを心尖部より左室内腔に挿入し、超音波クリスタルを左室心尖部・心基部に一対、左室前面・後面に一対を心内膜下に留置し、左室全体の圧一容積曲線(P-V loop)を描出し、また左前下行枝領域に約1cm幅で対角に二対の超音波クリスタルを留置し、局所心筋張カー面積曲線(T-A loop)を描出した。上行大動脈に挿入したカニューラをサーボポンプ回路を介してCF用チューブに接続し、CFを自由に変化させた。左前下行枝にCF用チューブを挿入し、冠動脈中枢側は遮断した。CF lOOml/minをコントロールとし、60ml/min,40ml/min,30ml/min,20ml/min,10ml/min,0ml/minと変化させ、その各時点でののP-V loop, T-A loopを描いた。P-V loopおよびT-A loop内の面積はそれぞれ左室仕事量(PVA)および局所心筋仕事量(TAA)であり、これらを各CFで求め、コントロールCFでの仕事量からの変化率を用い至適CFの検討を行なった。上記各CFにおける変化率はPVAでは94.8±2.8%,91.3±7.7%,85.5±16.9%,78.6±14.6%,81.8±18.5%,83.3%±14.4%であり、TAAでは96.8±7.0%,98.8±16.8%,81.1±43.3%,73.4±26.7%,47.6±23.7%,30.6±21.0%であった。PVA, TAAともにCF30ml/min以下で有意差(p<0.05)をもって減少を認めた・またCF10ml以下ではPVAは有意差をもって減少しているものコントロールの80%台にとどまったが・TAAはコントロールの50%以下に減少していた。今回の研究ではCF30ml/min以上が至適灌流量と考えられた。CFIOml/min以下では、左室全体としてのパラメータでは変化率が低いが、局所心筋のパラメータでは急激に減少しており、実際の臨床で左室のパラメータのみでは局所の重篤な心筋虚血が見逃される可能性が高いことも示唆された。
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