研究概要 |
脊索細胞が椎間板の恒常性維持に果たしている役割について家兎を用いTIMP-3の発現を中心に検討を行った。(1)TIMP-3の免疫染色では4週令の髄核と線維輪の両方に陽性細胞を認めたが160週令では認めなかった.(2)160週令の髄核では4週令と比較し,TGF-β1およびTIMP-3のmRNAの発現が統計学的に有意に低下していた.(3)髄核組織を用い、液性因子として、TGF-β1およびIL-1βの脊索性髄核に対する影響を検討したところ、TGF-β1はTIMP-3の発現を濃度依存性に増加させ、一方IL-1βは、TIMP-3の発現には影響を与えず、MMPの発現を増強させることを遺伝子レベルで確認した。(4)TIMP-3(50nM)はtype II collagenおよびAggrecanのmRNAの発現を統計学的に有意に増加させた。(5)アグリカンの分解を担うADAMTS4の発現を年代の異なる脊索性髄核において遺伝子レベルで確認した。 TIMP-3は他のTIMPと性質が異なり,MMPのみならずADAMTS4,5やADAM17のinhibitorであることが報告されている.加齢に伴いTGF-β1とTIMP-3の発現は共に低下しており,さらにin vitroでTIMP-3の発現はTGF-β1で濃度依存性にupregulateされることから,加齢性変化における脊索性髄核のTIMP-3の発現低下の一因としてTGF-β1の低下が考えられた.また,TIMP-3は基質分解の抑制のみならず合成維持にも影響し,脊索性髄核でのこれらの因子の発現低下が椎間板変性の引きがねとなる可能性が示唆された.したがって加齢におけるTGF-β1の発現低下に伴いTIMP-3の発現も低下し、基質合成能が低下すること、またMMP/TIMP-3,およびADAMTS4/TIMP-3の比率が分解系優位に傾くことで、椎間板恒常性維持のメカニズムに破綻が生じ、椎間板変性の初期の病態が発生することが推察された。 これらの研究成果の一部は第49,51回米国整形外科基礎学会(Orthopaedic Research Society),第30回国際腰椎学会(International Society for the Study of the Lumbar Spine)、第18回北米脊椎外科学会(North American Spine Society),第17回日本軟骨代謝学会,第18,19回日本整形外科学会基礎学術集会などにおいて発表した.
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