研究概要 |
軟骨は基本的に無血管組織であり,力学的特性を有する細胞外マトリックスを構築することで生理的機能を果たしている.したがって,血管の侵入自体が組織機能の破壊を意味するため,周囲からの血管侵入を積極的に阻止する仕組み,血管新生抑制因子の存在が考えられている.我々は平成17年度の科学研究費補助金を用いた研究において、軟骨組織中に同定した血管新生関連遺伝子(プラスミノーゲン関連遺伝子タイプB : PRG-B)のリコンビナント蛋白(PRP-B)を精製し,関節リウマチや変形性関節症に対する影響について,関節滑膜由来滑膜線維芽細胞とヒト関節軟骨由来細胞株を用いて研究を行った.さらに、本遺伝子の関節軟骨における発現をタンパクレベルと遺伝子レベルで検討した。その結果、PRP-Bは滑膜線維芽細胞や軟骨細胞の細胞増殖には影響を与えなかったが,炎症性サイトカイン刺激下の滑膜線維芽細胞においてVEGF発現を蛋白レベル,遺伝子レベルで抑制した.また、関節リウマチに罹患した関節軟骨においてPRG-Bの発現が蛋白レベル、遺伝子レベルで確認された。このことは、関節リウマチなどの炎症性関節疾患に罹患した関節内では、滑膜組織中で血管新生が活発に起きるため、これに対するnegative feedbackとして、血管新生阻害に関連する遺伝子の転写が関節軟骨で亢進することが推察される。PRG-Bが発現制御を行ったVEGFは強い血管新生作用,血管透過亢進作用のみならず,単球走化作用も有しており,関節リウマチや変形性関節症の病態形成に深くかかわっていると考えられている.それゆえ本研究の結果は,PRG-Bが関節リウマチや変形性関節症における病的血管新生を制御する標的遺伝子となりうることを示唆している。
|