研究概要 |
目的:揮発性麻酔薬の作用の強さを示す指標である最小肺胞内濃度(Minimum Alveolar Concentration : MAC)は,加齢により変化するとされているが,これは主に臨床において経験的に得られた知見であり,基礎的なエビデンスは乏しい.当該研究において我々はラット脳スライス標本を用い,加齢と全身麻酔薬の作用の関係をin vitroで検討した. 方法:ウィスター系雄性ラットを生後4週以内の若年群(Y群)と20週以上の老齢群(E群)に分けた.ラットを麻酔後断頭して海馬を摘出し,海馬スライス標本(400μm)を作成した.スライスは実験用チャンバー内のliquid/gas interface上に置き,人工脳脊髄液(pH=7.4)および95%O_2/5%CO_2混合ガスを還流した(37℃).シャーファー側枝に電気刺激電極,CA1錐体細胞領域に記録電極を刺入し興奮性シナプス伝達を記録した.また海馬白板に第二の刺激電極を置いて介在ニューロンにpre-pulseを与えることにより,反回性抑制を賦活し,抑制性シナプス伝達に及ぼす影響を検討した. 結果:揮発性麻酔薬イソフルラン(2.0vol%)は興奮性シナプス伝達を抑制したが,静脈麻酔薬チオペンタール(0.2mM)は明らかな影響を示さなかった.このイソフルランの作用はE群とY群において有意な違いを認めなかった.一方,チオペンタールおよびイソフルランは抑制性シナプス伝達を促進したが,この作用はE群よりもY群において著しかった. 結語:ラット海馬スライス標本において,全身麻酔薬による抑制性シナプス伝達促進作用は加齢により減弱するが,興奮性シナプス伝達抑制作用に対しては明らかな加齢変化を示さないと考えられた.
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