研究概要 |
神経因性疼痛は難治性の疼痛であり,その原因については不明な点が多い。また,神経因性疼痛を合併する患者の中には骨萎縮が観察されるケースもある。本研究では,神経因性疼痛モデルマウスを使用して,骨萎縮の酵素組織化学的検討,マクロファージおよび腫瘍壊死因子(TNF-α)と熱過敏性の関係について行動学的,生化学的,免疫組織化学的検討を行った。 骨萎縮の検討には神経因性疼痛群(CCI群),不動処置群(IMO群),CCIに不動処置を行った群(IC群)に対して,術後3週の時点でTRAP染色にて破骨細胞染色を行い,substance P(SP)抗体を用いてABC法による免疫組織化学染色を行った。TRAP染色後単位面積あたりの破骨細胞数を算出した。 マクロファージおよびTNF-αと熱過敏性の関係の検討には,正常マウス(con群)と先天的にマクロファージが少ないosteopetrosis(op/op)マウス(op群)を用いて神経因性疼痛モデル(Seltzerモデル)を作成した。その後,光熱刺激に対する逃避反応時間の測定で熱過敏性の分析を,Western blotting法でTNF-αの分析を,免疫組織化学染色でマクロファージとTNF-αの観察を行った。 結果として破骨細胞数では,術側破骨細胞数が非術側と比較して術後1週でCCI群とIC群,術後3週ではIC群で有意に増加した。また,術側破骨細胞数は術後1,3週とも3群間で有意差は認められなかった。SP染色像ではCCI群,IC群で濃染された組織像が観察されたが,非術側との明確な差は観察されなかった。マクロファージおよびTNF-αと熱過敏性の関係については,術後12時間の時点でop群よりもcon群が有意に熱過敏性を示し,その時のマクロファージとTNF-αはcon群よりもop群の方が少なかった。術後5日では両群とも熱過敏性を示したが,マクロファージとTNF-αは術後12時間と同様であった。 以上のことから,CCI群における破骨細胞数の増加には不動化以外の要因が考えられる。今後は実際に骨萎縮をしているかについて検討するとともに,今回検討したSP以外のニューロペプチドとの関連についても検討する必要がある。マクロファージおよびTNF-αと熱過敏性の関連は,神経損傷後早期では何らかの関連がある可能性が考えられたが,時間経過とともにその関連は弱くなると考えられた。今後はより長期的な観察とともに,脊髄や脳といった中枢での変化について検討する必要がある。
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