研究概要 |
序:小児では末梢や脊髄における疼痛伝達機構が発達中であるため,術後痛の機序が成人とは異なる可能性がある.そこで幼若ラットを用い,出生後の各成長時点における術後痛の脊髄後角(SDH)における機序を検討した. 方法:P0〜P14までのラットをウレタン麻酔下にL2〜L5脊髄を露出し,脊髄表面は酸素化したKrebs液を潅流した(5〜10ml/min).脊髄後角のwide-dynamic-range(WDR)およびhigh-threshold(HT)ニューロンの単一細胞活動を細胞外記録で導出した.P0〜P7ラットは2mm, P8〜P14ラットは5mmの皮膚切開を受容野中心に行い,切開後1時間は自発活動のみを観察記録した.自発活動,非侵害・侵害刺激による応答を切開前,切開1時間後に記録した.一部のニューロンでは,切開後,Krebs液内にMK-801,AP5,CNQXを投与して,反応を記録した. 結果:皮膚切開前において,幼若ラットのWDRニューロンは刺激後のafter-dischargeの頻度が高く,長時間持続した.皮膚切開後のWDRニューロンの自発活動は,幼若ラットが高頻度で長時間持続するものが多かった.皮膚切開後,幼若ラットではブラシに対する反応性の増加が成熟ラットより有意に大きく(P<0.05),他の刺激は有意差はないものの,成長とともに皮膚切開後の反応性の増加は低下していく傾向を示した.一方HTニューロンは,成熟ラットでは皮膚切開後も侵害刺激に対する応答は増加せず,非侵害刺激に対する応答は見られなかった.しかし幼若ラットでは60%のHTニューロンが皮膚切開後,非侵害刺激に対して応答するようになり,機能的にWDRニューロンに変化した.APV(50mM),MK-801(50mM),CNQX(10mM)の投与は,皮膚切開後のWDRニューロンの反応性増大を抑制した.一方,幼若ラットの脊髄後角表層ニューロン(I, II層)でin vivoホールセルパッチクランプ記録を行ったところ,侵害刺激で高振幅のEPSCは誘起されたが,高振幅の自発性IPSCは成熟ラットに比べて少なく,また非侵害刺激でIPSCが誘起されないものが見られた. 考察と結語:以上の結果から,SDHにおける興奮性シナプス伝達様式が,幼若ラットでは成熟ラットと異なり,易興奮性を示すことが示された.さらにin vivoパッチクランプ記録から,抑制性シナプス伝達も幼若ラットでは未成熟であることが示され,こうして乳幼児では術後痛に対する感受性が高い可能性が示唆された.
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