研究概要 |
本研究は敗血症が神経筋伝達機能および筋弛緩薬の作用に与える影響とその機序を明らかにすることを主目的にラット横隔膜神経筋標本を用いて行われ,以下の事項を明らかにした. 1.敗血症が生理的神経筋伝達機能に与える影響 神経筋接合部電気生理学的実験において後期敗血症は,1)終板電位振幅を増大させた,2)アセチルコリン放出素量を増加させた,3)後膜アセチルコリン感受性を低下させた,4)筋細胞膜電気的興奮性を増大させた. 2.敗血症が非脱分極性筋弛緩薬の作用に与える影響 収縮生理学的実験において,1)Rocuronium,pancuroniumおよびd-tubocurarineは収縮力をdose-dependentに低下させ,また早期および後期敗血症はそれらのdose-response curveを右方変移させた,2)早期および後期敗血症群におけるそれらのdose-response curveの右方変移は,pancuroniumで最も大きくd-tubocurarineで最も小さかった,3)後期敗血症群におけるそれらの右方変移は,早期敗血症群におけるそれらの変移と比較して大きかった. 電気生理学的実験において,1)後期敗血症は,終板電位の振幅を低下させるrocuroniumの作用を増強させた,2)後期敗血症は,アセチルコリン放出素量を減少させるrocuroniumの作用に影響しなかった,3)後期敗血症は,後膜アセチルコリン感受性を低下させるrocuroniumの作用に影響しなかった.4)後期敗血症による筋細胞膜興奮性増強は,rocuroniumに影響されなかった. これら一連の結果は,以下のことを示す,1)敗血症は,神経筋伝達における運動神経末端,接合部後膜,筋細胞膜の各段階や,それらに対する非脱分極性筋弛緩薬の作用に多様に影響する,2)これらの中で,運動神経末端および接合部後膜の生理機能およびそれらに対する非脱分極性筋弛緩薬の作用に対する敗血症の影響は互いに相殺され,筋弛緩薬の作用減弱の直接原因とはならない,3)骨格筋収縮レベルでみられる敗血症による非脱分極性筋弛緩薬の作用減弱の主原因ば敗血症による筋細胞膜興奮性の増強にある,4)敗血症による非脱分極性筋弛緩薬の作用減弱の程度は,敗血症病態の重症化とともに大きくなり,また非脱分極性筋弛緩薬の種類により異なる.
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