研究概要 |
本研究の目的は、炎症性痛覚過敏発症の過程における中枢神経系の興奮性の増加、つまり中枢感作の関与をプロスタグランディン(PG)に着目して調べる事、及び局所における炎症情報が中枢神経系に伝達されるメカニズムを信号伝達分子の同定を中心に探求する事であった。以下がラットカラゲニン誘発痛覚過敏モデルを用いて、現在までに明らかになった実験事実である。まず、末梢部位に起因する炎症性痛覚過敏は、炎症初期には局所において産生されたPGにより、末梢神経の興奮性が増強されることにより発症する。炎症中期から後期においては、それに加えて中枢感作も関与する。中枢感作を惹起する重要な物質の一つにPGE_2があり、PGE_2はシクロオキシゲナーゼ2(COX-2)依存性に中枢神経血管内皮細胞で産生される。末梢性炎症によりCOX-2,膜型PGE_2合成酵素(mPGES)を発現する血管内皮細胞は中枢神経系全体に部位差なく分布しており、またCOX-2,mPGESが同一細胞核内に共存している率が非常に高かった。次に末梢部位から炎症情報を中枢神経血管内皮細胞に伝達する分子として各種サイトカインに注目した。結果、インターロイキン6(IL-6)の循環血液中濃度は、炎症惹起後有意に上昇した。そこで中和抗体を全身投与してIL-6活性を抑制したところ、中枢神経血管内皮細胞におけるCOX-2,mPGES,転写因子STAT3の発現もクモ膜血管でのPGE_2産生も有意に抑制され、痛覚過敏行動も部分的にではあるが緩和されていた。 以上より、末梢部位に起因する炎症情報はIL-6などにより血行性に中枢神経血管内皮細胞に伝達され、それにより細胞内でCOX-2,mPGES依存性にPGE_2が産生される。産生されたPGE_2は脳脊髄液中に放出されて特異的な受容体に結合し、炎症の中期から後期におこる中枢性痛覚過敏などの発症に関与する可能性が示唆された。
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