研究概要 |
本研究の目的は、尿路に形成された黄色ブドウ球菌ないし腸球菌のバイオフィルムに関して、病原性遺伝子および薬剤耐性遺伝子がもたらす基礎的・臨床的問題点を把握して、院内感染症の諸問題に対処するための方策を検討することであった。 1)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)109株(1990〜2001年)を対象とした。8遺伝子(tst, sec, hla, hlb, fnbA, clfA, icaA, agrll)が対象株から高率に検出された。hla, hlb, fnbAを保有する菌株でバイオフィルム形成能が高かった。カテーテル留置症例から分離されたMRSAは、非留置症例から分離されたMRSAに比べ有意にバイオフィルム形成能が高かった。hla, hlb, fnbAの保有率は、カテーテル留置症例から分離されたMRSAにおいて高かった。以上の成績より、尿路におけるMRSAの定着、感染にhla, hlb, fnbA遺伝子産物の関与が示唆された。 2)Enterococcus faecalis 352株(1991〜2002年)を対象とした。そのうち315株が、病原性遺伝子asa1もしくはespを保有していた。ヘモリジン産生63株およびゼラチナーゼ産生167株の内、asa1およびesp両遺伝子保有株はそれぞれ59株,94株であった。またasa1およびesp両遺伝子保有株のバイオフィルム形成能は、いずれも保有しない株に比べて有意に高かった。asa1, cylA, aac(6')-aph(2")遺伝子は菌株間で伝達されており、これらの遺伝子はasa1およびesp両遺伝子保有株に集積していると考えられた。asa1, espのいずれかを保有する株は、カテーテル留置症例および非留置症例のいずれからも分離されていた。以上の成績より、病原性遺伝子を集積したE. faecalisはバイオフィルム形成能が高く尿路に定着するものと考えられた。
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