研究概要 |
精巣におけるNGF/NGF-Rを介した生殖細胞と精巣内体細胞との細胞間のコミュニケーションに対してNOがどのような役割を果たしているのかを検討し,以下の研究成果を得た. ・免疫組織化学的染色実験から, (1)ラット精巣では生殖系細胞(精母細胞,精細胞)にNGF抗体と反応する物質が局在する. (2)精巣上皮細胞(セルトリ細胞)にはNGF-R(p75)抗体,Trk-pan抗体(TrkA, B, Cを認識)と反応するタンパク質が局在する. (3)NGF-R, TrkA, TrkBは,セルトリ細胞表面全体(細胞膜上)に分布している.また,それらは被覆小窩と共に取り込まれて核上細胞質にクラスター様集落を示す. ・培養セルトリ細胞のRT-PCR実験ならびにウェスタン解析実験から, (4)セルトリ細胞はNGF-R, TrkA, TrkB, TrkCのそれぞれのmRNAを発現している. (5)NGF-R抗体に反応する76kDaのバンドとTrk-pan抗体,TrkA抗体(140kDa),TrkB抗体(145kDa)と反応するそれぞれのバンドを発現している. ・培養セルトリ細胞へのNOドナー添加実験から, (6)NOC18(NOドナー,0.4mM,24h)処理では,セルトリ細胞のNGF-R, TrkBのタンパク質ならびにmRNAの発現が明らかに減少した. (7)NOドナー処理によって,核上細胞質に認められたクラスター様の蛍光像を示す細胞集団が減少していた. ・培養セルトリ細胞へのNOドナーと受容体リガンドの添加実験から, (8)BDNF(100ng/ml)あるいはNGF(100ng/ml)をセルトリ細胞の培養系に添加した場合には,いずれにおいてもTrk-pan抗体と反応する146kDaタンパク質が明らかに増加した. (9)NOドナーの添加による146kDaタンパク質の減少は,BDNFやNGFが共存する事によって抑制された。 以上の事から,精巣上皮細胞(セルトリ細胞)はNGF-R, TrkA, TrkBを発現し,これら受容体からのシグナルを介して精子形成の統御に関わっている事が示された.また,精巣における過剰のNO産生はセルトリ細胞の神経刺激因子受容体の発現に重篤な影響を与え,、受容体下流のシグナル伝達系制御に変調をもたらし,精子形成の統御の異常を惹き起こす可能性も示された.これに対して,受容体のリガンドであるNGFやBDNFといった神経刺激因子はNOのこうした影響を抑制し,精子形成の統御を維持する事が出来ることが明らかになった.
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