研究概要 |
本研究では,難治性婦人科癌の発育・進展に関わる血管新生因子の生物学的意義を解析するとともに,新たな分子標的治療によるその制御を目指して研究を遂行してきた.まず婦人科癌培養細胞における血管新生因子,アポトーシス関連因子,浸潤形質規定因子の遺伝子発現をReal-Time PCR法で,プロテアーゼ活性をzymographyで,浸潤能をhaptoinvasion assayで評価し相互の関連性を検討した.また,婦人科癌の手術摘出組織における上記各因子の蛋白発現や腫瘍内微小血管密度をABC法で,apoptotic indexをTUNEL法で検討し,臨床病理学的因子や予後と対比した.我々のこれまでの研究から,頚癌や卵巣癌におけるvascular endothelial growth factor(VEGF)-Cの遺伝子発現がmatrix metalloproteinase(MMP)-2を介する浸潤動態と密接に関連し,血管新生能の亢進と癌細胞のアポトーシスからの回避が予後に影響することが判明した.一方,その制御を目指してTaxane製剤の抗血管新生作用に着目して検討した結果,Taxolが極めて低濃度で血管内皮細胞の増殖や遊走を阻害し,臨床的血中到達濃度で卵巣癌細胞の血管新生因子産生能や浸潤能をも抑制し得ることが判った.したがって,今後本剤は投与法を工夫することにより,難治性卵巣癌の抗血管新生療法に用い得る可能性があるものと考えられた.その後の研究の方向性として,種々のcancer susceptibility gene(GST,p53,Fas)の遺伝子多型あるいは変異と婦人科癌の発生・進展との関連性につき検討してきた.特に,Fas遺伝子のpromoter領域(-670)にはsingle nucleotide polymorphism(SNP)(A/G)が存在し,G alleleは同遺伝子の転写活性を著しく抑制して種々の癌腫におけるアポトーシス抵抗性を惹起する.そこで,婦人科癌患者のgerm lineあるいは細胞診検体DNAを用いてFas promoter-670遺伝子多型をPCR-RFLPにて解析したところ,G alleleが頚癌発生に密接に関与することが示唆された。さらに,GSTやp53についても同様に検討し,GSTT1の遺伝子欠損が頚癌発生に,p53 codon 72のArg homozygoteが体癌発生に関連することが判明した.現在,これら遺伝子背景と婦人科癌の浸潤・転移あるいは血管新生との関連性についてさらに検討を進めている.
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