研究概要 |
本研究課題はヒトレニン(h-Ren)及びアンギオテンシノーゲン遺伝子を導入したトランスジェニック動物を用い,妊娠期のみに高血圧を発症するモデル動物を作成し,本モデル動物の胎児-胎盤-母体間のレニンーアンギオテンシン(RA)系と他の血管作動性物質との相互作用を明確にし,妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群;PIH)における高血圧の発症機序を胎児側から理解することを目的とし,本モデル動物における1)一般病態(血圧,胎仔・胎盤・母体の病理所見及び血液生化学的性状),2)RA系及び心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の病態生理学的意義,3)妊娠高血圧症の発症機序に及ぼす種々の血圧降下剤による影響を精査した結果,以下の点が示唆された。 1)本研究課題にて作成したモデル動物は,妊娠中期から血圧が上昇し始め,妊娠末期には高血圧症を発症し,また胎児重量は対照群と比べ有意に小さく胎仔発育遅延を呈すことから,ヒト妊娠高血圧症候群(PIH)モデルとして有効な動物である。 2)本PIHモデル動物では,胎盤内でのヒトレニン及びヒトアンギオテンシノーゲンの特異的発現による母体循環におけるアンギオテンシンIIの過剰産生が明らかになり,胎盤組織内でのRA系の特異的発現により妊娠末期に高血圧が惹起されることが示唆された。 3)PIHモデル動物の胎仔発育遅延は,塩酸ヒドララジン及び塩酸ニカルジピンなどの降圧剤経口投与においても認められたが,ACE阻害剤やアンギオテンシン(AT)受容体桔抗剤の経口投与により改善されたことから,本モデル動物のPIH病態改善にRA系阻害剤は有効であることが示唆された。 今後,本研究課題にて作成したモデル動物により,RA系により誘発されるヒト妊娠高血圧症候群モデルの病態がより一層明確にされ,妊娠高血圧症候群における母子間の血管作動性物質の生理現象が統合理解されることを期待する。
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