研究概要 |
内耳のinnate immune system(自然免疫機構)の存在と機能の可能性について検討した。Toll-like receptor(TLR)4のリガンドlipopolysaccharide(LPS)を腹腔内投与と鼓室内投与により蝸牛に到達させ免疫応答を観察した。 LPSの腹腔内投与は48時間後蝸牛外リンパ腔に少数ながら有意に好中球を浸潤させた。コントロール蝸牛の外リンパ腔には好中球は全く観察されず、LPS投与によって生じた蝸牛変化と考えられた。好中球が観察されたのは蝸牛外リンパ腔と蝸牛軸のみで、内リンパ嚢には、有意な好中球浸潤やED1(CD68)陽性の単球・マクロファージの増加は観察されなかった。すなわち内リンパ嚢の免疫応答によらない蝸牛独自の免疫応答機構存在の可能性を示唆し、LPS認識メカニズムの候補として蝸牛における自然免疫機構が存在すると考えた。しかし蝸牛らせん靭帯にIL-1βの発現は観察されず、さらに過去にTLR4が局在すると報告された蝸牛外側壁に存在する外溝細胞周囲に好中球を観察することはできなかった。すなわち蝸牛外側壁にTLR4が局在することを示唆する所見は得られなかった。 LPSをより確実に蝸牛に投与するためLPSの鼓室内投与が行われた。鼓室に投与されたLPSが正円窓膜を通過し、内耳炎を生じるとされるためである。 その結果、LPSの鼓室内投与後3時間から7日間に中耳腔に炎症細胞浸潤を惹起し、IL-1β,IL-6,TNF-αを発現させた。しかし蝸牛の炎症細胞浸潤はほとんどなく、蝸牛、内リンパ嚢組織で炎症性サイトカイン発現も観察されなかった。 今回の研究からLPSに対して蝸牛が独自に免疫応答し、それが自然免疫応答である可能性は示されたが、中耳腔と比較すると微弱で、内耳におけるTLR4の局在および具体的な機能を推定するには至らなかった。
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