研究概要 |
我々は既にwistar系ラットの蝸牛および内リンパ嚢よりmRNAを抽出し、蝸牛にはAQP1,2,3,4,5,6が、内リンパ嚢にはAQP1,3,4,5,6が、それぞれ発現していることを確認した。本年度は、さらにステロイド(デキサメタゾン)の各種投与法(腹腔内投与、中耳腔投与、内リンパ嚢投与)により、ステロイド負荷をかけた後のそれらの分子発現動態をreal-time PCR法にて検索した。ステロイドの腹腔内投与では内リンパ嚢におけるAQP3mRNAが、ステロイドの内リンパ嚢投与では蝸牛におけるAQP3mRNAが、それぞれ有意に発現上昇することがわかった。このことから、ステロイド各種投与法ではそれぞれ異なる経路により内耳AQPの遺伝子発現を調節し、内リンパ組成に影響をおよぼす可能性が考えられた。 さらにそれらの基礎実験の結果を踏まえて、メニエール病患者に対する内リンパ嚢ステロイド挿入術の前後でヒト血中抗利尿ホルモン値の変化を検討し、その値が術後有意に低下することを明らかにした。術後その低値が持続した患者のめまい・聴力成績は長期的に良好であることを明らかにした。したがって、内リンパ嚢へのステロイド挿入は内耳-視床下部-下垂体系に作用し、血中抗利尿ホルモン値の低下をもたらす可能性が示唆された。 上記の内耳水代謝ホルモン系統の基礎・臨床研究と並行して、前世紀末にクローニングされた侵害受容体TRPVファミリーの内耳での遺伝子、タンパク発現を検索した。TRPV1,2,3,4の蝸牛、前庭神経節における発現を証明した。さらに蝸牛、前庭の末梢感覚細胞におけるTRPV1,4の発現も示唆された。とくにTRPV4は侵害刺激のうちでも浸透圧刺激に対して反応する受容体であり、内耳浸透圧の恒常性さらにはメニエール病内リンパ水腫の発症機序にも関与している可能性が示唆された。
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