研究概要 |
手術時に反回神経を損傷すると,たとえ神経線維の断端を端端吻合しても声帯運動は不可逆的な障害を残す.このような声帯運動障害の原因は,神経過誤支配,筋の萎縮などが考えられているが,そのメカニズムは明らかではなく,分子レベルからの視点で解明することは重要である.神経損傷モデルとして研究の進んでいる顔面神経核,舌下神経核と比較して,反回神経の起始核である疑核は局在,形態が明確でないことや,疑核運動神経の投射先が咽頭,食道など喉頭に限らないことなどの問題からその報告は少ない.そこで我々は,逆行性に蛍光標識した喉頭筋支配疑核運動神経細胞を,一側反回神経切断後に単離しRT-PCR法を駆使することにより当該神経細胞内での分子変化を解明する方法を,免疫組織化学法と組み合わせて試みた. まず蛍光色素DiIを両側甲状披裂筋に注入し疑核運動神経細胞を標識した.続いて右反回神経を切断し,免疫組織学的検討を加えStat3が神経切断によりリン酸化して細胞質から細胞核へ移行したことを示した.疑核運動神経細胞を標識したのち右反回神経を切断し,蛍光顕微鏡下にマイクロマニピュレーター駆動の尖刃を用いてDiI標識神経細胞を単一細胞レベルで採取し,単一細胞由来全cDNAを合成,定量的リアルタイムRT-PCRを施行した.Stat3,Reg-2,Bax,Bcl-2,GAP-43,nNOS,および遺伝子の相対的発現レベルを解析し,それぞれ特徴的な発現変動を示した.Stat3の活性化が,その下流の遺伝子発現を調節していることを示した. 本研究で行なった新たな細胞採取法は,喉頭筋群へ投射する神経細胞の分子動態を,着目した単一神経細胞レベルで解析していく上での有力な手法となり得ると考えられた.
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