内リンパ液は細胞外液であるにもかかわらずK^+が高く、Na^+、Ca^<2+>が低い特殊な組成が維持されており、主な陰イオンとしてCl^-、HCO_3^-が存在していることが明らかとなっている。内リンパには蛋白質、燐酸がほとんど含まれないことから、内リンパ液のpH安定化にはHCO_3^-/CO_2系が緩衝系として働いているものと考えられる。 今回の研究では一定の呼吸条件下で内リンパpHをイオン電極法を用いて測定し、同時に血液ガス分析を行い相互の関連を検討した。 内リンパpHは7.59±0.108(平均±標準偏差)(n=10)、血液pHは7.57±0.067、血液CO2分圧は22.6±2.44mmHg、血液HCO_3^-は19.8±2.45mEq/lであった。内リンパpHと血液pHの相関係数は0.85と高い相関を認め、統計学的に有意であった 内リンパpHは血液CO_2分圧と負の、血液HCO_3^-とは正の相関を持つと考えられるが、血液HCO_3^-との相関が有意であった。内リンパpHはHCO_3^-/CO_2系が主たる緩衝系であるが、血液CO_2分圧のみで決定されるのではなく、内耳内でのHCO_3^-の産生、輸送機構が関与していることが考えられた。 内リンパpHは、Ca(HCO_3)_2の解離度を変化させることで内リンパ液Ca^<2+>濃度安定化にもかかわっている可能性があり、蝸牛の音受容器としての感度の調節、前庭系での耳石代謝の面でも重要な調節因子となっていると推測される。内耳機能、病態生理を理解する上で内リンパpHの制御機構をさらに解明することが必要と考えられる。
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