研究概要 |
本研究は敗血症から多臓器障害への進行の防止を、エンドトキシン受容体(TLR4,RP105)と各種サイトカインの発現・機能調節から試みる上での必要な実験で、病態の進行、すなわち敗血症から多臓器障害への進行中に見落とされがちな、初期自然免疫の中心ともいえるエンドトキシン受容体(TLR4,RP105)が、病態の悪化に関与するか否かを解明するためのものである。敗血症患者30名(57検体)より末梢血を採取し、免疫細胞に対する抗体(CD3、CD19、CD14、およびCD11b)と抗TLR4抗体、抗RP105抗体による二重染色を行い、フローサイトメトリーでこれらの分子の発現を検討し、TLR4およびRP105の発現と、全身性炎症反応症候群(SIRS)の陽性項目数との関係、SOFAスコアとの関係を明らかにした。敗血症患者のうち炎症反応が強い(CRP高値、あるいはSIRSのスコア高値)ものはB細胞のうちRP105陰性細胞の比率が上昇した。次に、TLR4およびRP105の発現とCRPならびにpro-inflammatory cytokineの代表であるIL-6とanti-inflammatory cytokineの代表であるIL-10との関係を明らかにした。次にTLR4およびRP105の発現とMIF (macrophage migration inhibitory factor :近年エンドトキシンショックの主要な増悪因子として注目されている)と、HMGB1 (High mobility group box 1 :元来、非ピストン核蛋白の主要成分であり、転写調節因子として知られているが、近年、敗血症末期もしくは多臓器不全の際に血中に放出される分子として注目されている)の血中濃度との関係を明らかにした。敗血症から多臓器障害に進行するにつれエンドトキシン受容体(TLR4,RP105)発現が低下することが、同条件でのサイトカインバランスの推移(IL-6,IL-10,MIF, HMGB1)を指標にすることにより敗血症から多臓器障害への進行の病態把握が可能になり、将来は各種薬剤の組み合わせによりエンドトキシン受容体(TLR4,RP105)の発現・機能調節と、各種サイトカイン発現の選択的調節により多臓器障害への進行の防止に繋がる可能性が高い。
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