研究概要 |
タンパク質脱リン酸化酵素1型(PP1)の各アイソフォーム(PP1α,PP1γ-1,PP1δ)はヒトおよびマウスの骨芽細胞内にそれぞれ特異的な細胞内局在を示した。特にPP1δは細胞核に5-7個のドット様構造物として,核小体に強力に発現した。この存在様式はリボゾームRNA合成の場と考えられ,悪性腫瘍細胞に高度に発現し,硝酸銀により染色されるArgyrophilic Nucleolar Organizer Regions(AgNORs)とその構成タンパクであるニュークレオリンの細胞内局在と完全に一致した。アポトーシスは核内の変化を特徴とする細胞死であり,クロマチンの凝縮,核の断片化,DNAラダーの形成を伴う。蛋白質脱リン酸化酵素阻害剤オカダ酸はヒトおよびマウスの骨芽細胞にアポトーシスを誘導した。正常細胞において核小体にドット状に染色されるニュークレオリンは,アポトーシス細胞では核全体に拡散した。正常細胞から調製したタンパク質をSDS-polyacrylamide gel electrophoresisで分離し,ウエスタンブロット法で分析すると,110kDaのニュークレオリンが検出されるが,アポトーシス細胞から調製したタンパク質では110kDaのタンパク量が減少し,新たに80kDaのタンパクが出現しその量が増加した。つまり,アポトーシスによりニュークレオリンは分解されて80kDaの断片になる。PP1δに特異的な塩基配列を有する2重鎖RNAを合成して,RNAiを行うと他のPP1の発現は抑制を受けなかったが,PP1δの発現は著しく抑制された。また,PP1δのRNAiにより,ニュークレオリンの発現も減少した。以上の結果は,ニュークレオリンのリン酸化状態とアポトーシス誘導が密接な関係にあり,その関係をPP1δが調節することを示唆している。
|