研究概要 |
我々が樹立したヒト口腔扁平上皮癌細胞株MISK81-5とsMISK間で差異的発現がみられたHP1を対象とし、癌細胞の腫瘍形成におけるHP1のエピジェネティック機能の解明を試みた。HP1にはα,β,γがあり、ヘテロクロマチン形成等への関与から癌細胞の形質に影響を及ぼすと考えられる。 HP1 mRNAの発現量の比較を行った処、HP1γ mRNA発現量は腫瘍細胞間にほとんど差が見られなかったが、HP1α,βに関しては、細胞増殖能等が高い細胞株でHP1α,βの低発現を認めた。細胞株によるの発現量のバラツキはHP1βが大きかった。また、MISK81-5とsMISKからクローニングしたHP1 isoformsの塩基配列に変化は認められなかった。これらと他の結果を加味すると、HP1α,βの発現量の変化が腫瘍細胞の形質に関与することが示され、HP1γの影響は少ないものと考えられた。 HP1のN/C末端にGFPを融合させた蛋白を細胞で発現させても、いずれも核内へ移行し、DAPI陽性域との重なりが観察され、クロマチンへの結合能は失われなかった。 また、上記の差異的発現をみた遺伝子群に扁平上皮癌血清腫瘍マーカーとされるSquamous cell carcinoma antigen(SCCA)があり、その腫瘍細胞の形質への影響の解析した。SCCAの発現は、TNF-αによる細胞死誘導に対する腫瘍細胞の抵抗性を高め、そこにミトコンドリアからのシトクロームc放出抑制が関与することを報告した(Tumour Biology,2005)。しかし、必ずしもHP1の発現量の低下が、SCCAの発現量の増大に至っていなかった。同様に腫瘍細胞間で差異的発現がみられたS100A7遺伝子のプロモーター解析を行った。高発現を示した腫瘍細胞からS100A7遺伝子上流約3.6kbをクローニングし、塩基配列の解析を行ったが、NCBI登録の塩基配列と相違なく、扁平上皮癌細胞株におけるS100A7遺伝子の高発現にはプロモーター領域の塩基配列の変化は必ずしも必要ではないことが示された。また、扁平上皮癌特異的に発現が促されるシス領域が示唆された(BBA,2006 in press)。
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