研究概要 |
本研究は、ヒト同一歯に由来する歯根膜線維芽細胞と歯肉線維芽細胞の培養形系を用いて、トロポエラスチン、微細線維(fibrillin-1,fibrillin-2,MAGP-1)、エラスチン結合タンパク(fibulin-5)の発現とその遺伝子発現、ならびにエラスチン沈着量を経時的に分子生物学的、免疫細胞組織化学的に解析した。さらに組織におけるエラスチン消化・分解制御機構を解明を試み、以下の結果を得た。 弾性系線維形成においては,トロポエラスチンの微細線維への沈着機構が必要とされている。微細線維構成成分であるfibrillin-1,-2とトロポエラスチンの発現とそれらの遺伝子発現は歯肉線維芽細胞では認められた。また,歯肉ではエラスチン沈着したエラウニン線維と弾性線維が観察された。しかし,歯根膜線維芽細胞では,fibrillin-1,-2の発現とそれらの遺伝子発現も低く,トロポエラスチン発現は認められなかった。さらに,歯根膜組織では,エラスチン非沈着の微細線維からなるオキシタラン線維のみが観察された。 MAGP-1とfiburillin-2の遺伝子をRNA干渉法(RNAi)でノックダウンすると、トロポエラスチンの沈着が対照群の30%以下に抑制された。免疫組織化学的にも同様な抑制が観察された。少なくとも、MAGP-1とfibrillin-2はトロポエラスチン沈着を直接あるいは間接的に制御していることを明らかにした。次に,fibulin-5の発現とその遺伝子発現を解析した。歯肉線維芽細胞では,fibulin-5とトロポエラスチンの遺伝子発現は経時的に上昇する類似した発現パターンを示した。さらに,歯肉線維芽細胞では,RNAiを用いてトロポエラスチン発現を抑制すると,fibulin-5の発現も抑制された。fibulin-5遺伝子発現はトロポエラスチン遺伝子発現で調節されていることが示唆された。しかし,歯根膜線維芽細胞では,fibulin-5の弱い発現は認められたが,発現パターンの変化は認められなかった。 歯根膜線維芽細胞では活性型MMP-2が存在し、fibrillin-2の分解・蓄積量を調節していることも明らかになった。 これらの結果より,歯周組織の部位による弾性系線維形成機構の差異とエラスチン消化・分解制御機構が明らかとなってきた。そこで,これらの形成機構を基礎とした歯周組織の修復および再生・新生への応用を進めている。
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