研究概要 |
実験動物にはSD系幼若ラット(7-21日齢)を用いた。新鮮脳スライス標本(厚さ150-250μm)を作製した。近赤外光ノマルスキー微分干渉顕微鏡下にて脳スライス標本中の最後野および海馬CA1領域のニューロンを同定し,ホールセル記録を行った。アセチルコリン(ACh)受容体およびセロトニン受容体を介するニューロン活動の修飾機序を調べた。また,静脈麻酔薬(プロポフォール)の過分極作動性カチオン電流(Ih)に対する抑制作用について,最後野ニューロンと海馬CAIニューロンにおいて比較検討した。これらの実験から下記のような結果が得られた。 1.ニコチンの潅流液中への投与に対して,最後野ニューロンの78%(n=35/45)が興奮性の応答を示し,抑制は見られなかった。この内,Ihチャネルの活性を示すもの(n=25),Ihチャネルの活性を示さないもの(n=10)であった。応答様式は1)膜電位の脱分極を伴った活動電位の発火頻度の増加(電流固定記録),2)持続的な内向き電流(電圧固定記録),3)持続的な内向き電流を伴わない微少興奮性シナプス後電位(mEPSC)の頻度の増加(電圧固定記録)に分類された。この結果は以前報告されたムスカリン受容体だけでなく,ニコチン受容体が最後野ニューロンのシナプス前部および後膜に存在し,ニューロン活動を修飾することが明らかとなった。 2.セロトニン3型受容体アゴニストの潅流液中への投与に対して,一つのニューロンを除いて,持続的な内向き電流を伴わないmEPSCの発生頻度の有意な増加が観察され,シナプス前セロトニン受容体に作用していることを示唆する結果を得た。 3.最後野ニューロンのIhに対するプロポフォールの50%抑制濃度(IC_<50>)は海馬CA1ニューロンのIhに対するIC_<50>の約1/6であることを明らかにした。これは,プロポフォールの静脈投与の初期において,最後野ニューロンのIhの方が強く抑制を受けることを示している。
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