研究概要 |
ダウン症候群(DS)は,さまざまな先天異常を伴う染色体異常であるが,その一つに感染防御機構の脆弱性があげられている.しか保険上の問題としては,歯周病原細菌でPorphyromonas gingivalisにより,重篤な歯周疾患を早期に発症しやすいことが知られている.歯周組織を構成する歯肉上皮細胞(HGE)と歯肉線維芽細胞(HGF)は,P.gingivalisなどの病原細菌の侵入に対する宿主側のバリアとしての役割を担っている.しかしながらこれまで,P.gingivalis感染に対するDS歯周組織の宿主反応についての知見は得られていなかった.我々は,平成15〜16年度科学研究費補助金によりHGEの培養法の改良,およびDS由来HGEとHGFを用いたP.gingivalisによる付着・侵入試験を行い,その感染の様子を共焦点レーザー顕微鏡にて観察した. DS由来HGEの培養では,血清を含んだ培地よりも,無血清選択培地のほうが歯肉上皮を選択的に培養できると考えられた.しかし,無血清培地を用いてもDS由来HGEの培養は困難な場合が多く,これは21トリソミーに由来する過剰染色体による細胞の分裂と維持に関わるタンパクの異常やtelomereの減少などが原因と推察された.DS由来HGEに対しては,健常者のHGEよりもP.gingivalisが付着・侵入しやすいことが示された. 一方2003年にはP.gingivalisがHGFに感染・侵入するとの報告がなされている.そこでin vivoでP.gingivalis感染実験を行ったところ,DS由来HGFに対しては,健常者のHGFよりもP.gingivalisが付着・侵入しやすいことが示された.このことから,DSでは健常者に比較して,HGEだけでなく,その下部にあって歯周軟組織のほとんどを占めるHGFも,P.gingivalisに対して易感染性であることが示された.歯周組織由来の細胞にP.gingivalisを感染させ,共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した結果,DSではHGEとHGFの両者において健常者由来の細胞に比べて,P.gingivalisが多く侵入している様子が観察された. 以上のことから,DS由来細胞は,Pgに対してin vitroで易感染性を示すことがわかった.このことはDSの歯周ポケット上皮はP.gingivalisが付着・侵入しやすいこと,さらに上皮下に侵入したP.gingivalisは線維芽細胞にも付着・侵入し,歯周疾患の発症と進行に重要な因子になることが推察された.
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