研究概要 |
本研究においては,Bis-GMA中に含まれるビスフェノールA(BPA)のラジカル捕捉性に着目して,モノマーの段階でBis-GMAからBPAを完全に除去することにより,BPAの溶出に関して,Bis-GMAの安全性を確立しようとするものである. 1.ポリメタクリル酸メチル(PMMA)とのラジカル捕捉反応 PMMA中に存在するラジカル量はガラス転移温度と関連し,その存在量は加熱により調節が可能であった.ポリマーのBis-GMAへの溶解性を向上させるために,メタクリル酸誘導体とMMAとの共重合体を合成した.これらの共重合体を用いたBPAのラジカル捕捉反応ではBPAを完全に消失させることはできなかった. 2.ラジカル前駆体とのラジカル捕捉反応 Bis-GMAへの溶解性を考慮して,可視光線重合系や熱重合系の低分子のラジカル前駆体を用いた.加熱によるラジカル生成系では,加熱によりBis-GMAの重合が起こりやすくなるために,重合を抑制して,BPAのみを消失させることはできなかった.一方,可視光線照射によるラジカル生成系では,ラジカル前駆体濃度や照射光線強度によりラジカル捕捉反応と重合反応のバランスを制御することができた. 3.クロマトグラフィーによるBPAの除去 Bis-GMAの純粋化合物としての化学反応性を検討するために,市販Bis-GMAのシリカゲルカラム処理によりBis-GMAの主成分モノマーのみからなる純粋なBis-GMAを調製した.この化合物にラジカル前駆体,共重合体,重合開始剤を共存させてもBPAは産生されず,一旦,BPAを排除したBis-GMAを用いた歯科用レジンはBPAの溶出などによる為害性は問題とならないことが明らかとなった.また,Bis-GMA主成分モノマーの精製の過程において,吸着剤によるBPAの吸着除去の可能性が示唆された.
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