研究概要 |
ビスフォスフォネート(BP)は,破骨細胞の機能阻害作用を示して骨吸収抑制作用を有することが知られている。本研究はビスフォスフォネートをあらかじめ義歯装着前に義歯床下組織に局所投与し,義歯床を介して義歯床下骨組織に吸収を惹起させた場合の骨動態に及ぼす影響を組織計測的に検討した。 Wistar系雄性ラット280匹(70匹×4群)を義歯装着群3群と対照群1群とに分けた。義歯装着群のうち2群に臼歯部口蓋を対象として安静時には義歯床下組織と無圧の状態で接触し,咀嚼時には20kPaの咀嚼圧を加える可撤性の義歯床を装着した。このうち1群には臼歯部口蓋の骨膜下にBP5μgを義歯床装着前の2週間毎日注射した(BP(+)群)。他の1群には生理的食塩水を同量注射した(BP(-)群)。義歯装着群のうち残る1群は被覆群とし,義歯床下組織を無圧の状態で被覆する義歯床を装着した。対照群は義歯床を装着することなく経過させた。骨組織のラベリングは義歯床装着12週前,義歯床装着時および義歯床装着の4日後以降1週間隔で観察期間を通じて行った。義歯床装着の1週後以降10週後まで毎週,各群の7匹ずつ屠殺した。採取した口蓋骨組織は,通法に従って樹脂包埋し前頭断未脱灰研磨標本を作製して顕微鏡下で観察しつつ,二次元画像解析装置を用いて組織計測を行った。 吸収面は,BP(-)群では義歯装着後1〜4週に,BP(+)群では2週のみに被覆群に比べて有意に大きい値を示した。破骨細胞面は,BP(-)群では被覆群に比べて義歯装着後1〜3週において有意に大きい値を示したが,BP(+)群では有意差は認められなかった。骨吸収量は,BP(-)群では51.8μm,BP(+)群では10.7μmであった。以上の結果から,BPの局所投与によって義歯床下骨組織の吸収は,軽度になるとともに発現期間が短縮し,骨吸収量が約80%抑制された。
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